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ここんとこずっと、トラブル続きで、週末の土曜日まで早朝出社。
まあ…立て込むときは立て込むから仕方ない。
若干きつく感じるネクタイを緩めながら、営業部に入っていったら…遥がデスクで既に作業してた。
「あ、唯斗おはよう。書類の作成とNY社への連絡は済んだよ。後は…佐々木鉄鋼さんがどう出るか、だね。あっちの問題は。まあ、社長さんの感触だと、唯斗が話せば通りそうだけど。」
「……おはよ。ありがと…って何?徹夜?」
「や…適当に仮眠は取った。でも、NY社の会議に時間合わせてだったから…まあ、そこそこ?」
…確かに今、仕事が立て込んではいるけど。
今までだってこの程度の立て込み方はあって。だけど、少なくともここ半年は遥 は一度も会社に泊まり込みなんてしなかった。
多分、要領よくやって、持ち帰れる仕事は持ち帰るとか、打ち合わせも何だかんだ上手く組んでたんだろうって思う。
努力し、頭を使えば出来ない話じゃないから。特に遥は。
それが…ここ一週間は、出社も遅くて、帰るのも遅い。
あげく、泊まり込み…
「なあ、遥 。」
「んー?」
「何かあった?」
コーヒーをカップに入れて、差し出したら、それを受け取った遥 は、一度俺をジッと見て、「別に」と微笑んだ。
…もしかして、沙奈ちゃんとうまくいってないとか?
や、でも…前に飲んだ感じだと、痴話喧嘩位で遥が家に帰らなくなるとも思えないんだよな。
その位…沙奈ちゃんに対して過保護だった気がするし、固執してた。
『…ちょっとね。逢いたい人がいたもんで、帰って来ちゃった。』
遥 がNYから帰って来て最初にバーで二人で飲んだ時に、ポロッと言った言葉を思い出す。
あの後だったよな…俺と話す時に、沙奈ちゃんの事、話題に出し始めたのって。
“沙奈ちゃんと何かあった?”なんてストレートに聞いた所で、このひねくれ者が口を割るとは思えない。
性分じゃねーけど、仕方ねーから、遠回りに聞いてみるしかないね。
「そういや、遥 、NY社から『戻ってこい』って会議の度にせっつかれてんじゃん。」
「あー…ね…。」
「あっちのが給料もいいんじゃないの?」
「大して変わらないよ?まあ、どっちにしろ、エースなあなたよか安月給です。」
「嘘つけ」
ハハッと楽しそうに笑う遥 。
「…戻る気はない、ってこと?」
「ん~…さあ。」
ただ表情穏やかに、微笑みコーヒーを口にした。
その表情は、ものすごく悲観的でもないけれど、明るいわけでもない。
本当に至って穏やかで。本音が見えない。
「…沙奈ちゃんと何かあった?」
結局俺の性分で、ストレートに聞くしかなくなった。
俺の意図を悟っていたであろう遥はクッと含み笑い。
「…んだよ。」
「や?唯斗は優しいなーって思っただけ。」
俺からカップを抜き取って、コーヒーを入れ直し目の前に置いてくれた。
「…あの人、出てった。」
「…………は?」
「今日、すっごい晴れてるから、引っ越し日和だったね。」
遥は椅子に座り直して、そのまま窓の外の空を眺める。
「や…いいの?そんな悠長な事言ってて。」
けれど、振り返った遥は少し寂しそうにでも、やっぱり穏やかに微笑むだけ。
そのままパソコンに向き直り、キーボードを打ち始める。
「どうすんの?これから」
「ん~…?まあ…どうしよっかな。」
…それ以降、仕事に戻った遥が沙奈ちゃんの話に戻ることはなかったし、俺も戻すことは無かったけど。
本当にこれから…どうするつもりなんだろ…遥 も、沙奈ちゃんも……。
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