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…何か、上手く身体が動かせない。
のばしたいのに伸ばせない身体。窮屈に思えて、重たい瞼を開いた。
カーテンの向こうの光のおかげで、どことなく明るい部屋の中。
目の前には、くうくうと眠る………
……杉崎さん?!
意識が一気に鮮明になり、自分が杉崎さんのベッドの上で寝てしまった事を思い出した。
…私がベッドの上を占領してたから、布団に入って眠れなかったんだ。
これじゃあ癒やしどころかまともに熟睡できないじゃない。
せめて一人で寝かせてあげようと、そっと腕をはずそうとした途端
「ん~…」
余計に捕らえられて、引き寄せられる。
ど、どうしよう。
完全にその足で挟まれて身動き取れなくなった…
「あ、あの…杉崎さん…」
「………。」
「わ、私…自分のベッドに戻るので休んでください…」
私の言葉に反応して、ギュウッと音がしそうな程に抱きしめられた。
「…抱き枕になるっつった。」
呟く様に甘えた声。
それにキュウッと心が鳴って苦しさと嬉しさが込み上げた。
うん…なります。
いくらでも。
そっと杉崎さんのふわふわな髪に指を差し込んで撫で、目を再び閉じる。
杉崎さんがくうくうとまた寝息を立て始めた。
その音とリズムが心地よくて、私も再び微睡み始める。
もう少しで意識を手放す。その瞬間、静けさの中にスマホのバイブの振動が突然割って入った。
しかも、一度、二度ではなく…何度も。
これ、着信だよね。
杉崎さんのスマホが暗闇の中、光を発してる。
垣間見えた文字
“Lily”
「……。」
「あ、あの…杉崎さん?スマホが…」
「……今、忙しい。」
部屋着の隙間から中へ杉崎さんの手がスルリと入り、肌を滑る。
「あっちょっ…す、杉崎さん…」
その間も、ずっと震え続けているスマホ。
一旦切れても…繰り返し。
それなのに、杉崎さんはお構いなし。
「…昨日の続き。しよっか。」
私の返事を待つことなく、くるりと体勢を変えて私を仰向けにするとその上に身体を預ける。
垂れ下がった前髪から見える杉崎さんの表情は、とろんとした目の中に優しい光があって柔らかい。
「す、杉崎さん…着信は…」
「沙奈のが大事。」
杉崎さんの言葉に、鼓動が震え、そして身体が動かなくなった。
私が…大事……?
一瞬にして視界がぼやける。
例え今、この時を埋めるだけの言葉だとしても…
杉崎さんが杉崎さんの言葉で、『大事』だって言ってくれたんだよ?
そんなの…嬉しいに決まってる。
そこからは、スマホの振動なんて全く耳に入らなくなった。
ただ、杉崎さんがくれる感触に身を委ねて欲する。
妖艶ながらも柔らかく笑う幼い笑みに翻弄されて、自らキスをねだる。
「…沙奈。もっと?」
焦らされ、翻弄されて
「杉崎さん…」
彼を引き寄せてすがる。
そうしてどのくらい杉崎さんに夢中になっていたかは定かじゃない。
気がついたら、裸のまま、同じ一枚の布団の中で彼の腕の中だった。
…さっきよりも外が明るい?
カーテンの隙間から差し込む光は昼間を思わせる様な光で、微睡みから起きたばかりの私の目には少しまぶしすぎる位だった。
もう一度ギュッと目を閉じて、杉崎さんの胸元に顔を埋めると、呼応する様に少し抱き寄せられた。
「…沙奈、ごめん。背中にも増えたわ」
少し顔を上げると、自然と鼻先が触れ合う。
そんな距離で杉崎さんがくふふと柔らかく笑った。
「何か、色んなとこ赤いね、沙奈。」
「き、昨日、教えてくれたら…」
「だって、教えたら隠しちゃうじゃん。唯斗に見せつけたかったの、俺は。」
………何で?
「 つか、あんだけされといて気がつかないってさ。そんなに夢中だったわけ?ちゅーに。」
「そ、それは…」
痛いところを突かれて、思わず杉崎さんの首元に顔を埋めた。
……だって。
杉崎さんのキスは、ずっとずーっと優しくて、甘くて…そのたびに夢中になってしまうから。
気持ちよさに頭の中がぼーっとして、もっとして欲しいって…
……やっぱり私、変態か?
で、でも、杉崎さんにだけだし、そんなこと思うの。
「ぬ~…。」
「や、“ぬ~”って。顔埋めてもムダだよ?」
杉崎さんがハハって笑いながら私の髪を指でクルクルと弄び始める。
「まあ、沙奈が『杉崎さんのちゅー好き♡』ってんなら俺も本望です。」
「……絶対思ってない。」
「思ってるよ?」
強引に私を少し引き離すと、再び鼻をすり寄せた。
「なんせ、沙奈は“俺の”だからね」
嬉しそうなその柔らかい表情に、また気持ちが締め付けられて苦しくなる。
「杉崎さん…の。」
「うん、俺の。違う?」
「ちが…わない…」
……けど、違うんだ。
金銭と住居の上での関係で…だからこその“ペット”
そういう捕らえられ方をしていたはずなのに。
今は気持ちの方が、ずっとずっと、杉崎さんに捕らわれている。
私の返答に柔らかく微笑んだ杉崎さんの薄めの唇が、顔のあちこちに触れ出した。
「く、くすぐたい…」
反射的に少しだけ離れようとした私を引き寄せて、最後に唇にキスをする。
そこから何度か重ねられる唇。
その柔らかさと素肌の擦れ合う感触が気持ちよくて、暫くそのまま受け入れた。
優しくて深いキス。
そこに少し悲しい味が入り込む。
いつまで私は、『杉崎さんの』でいられるんだろう…



