◇
……あらら。
沙奈、こんなとこで寝ちゃってるじゃん。
仕事のトラブルを何とか収束させて帰って来たのは明け方。
ちゃんと寝てっかなーあの人。
なんて思いながら、そっと沙奈の部屋を覗いたら気配が無くて、じゃあ…俺のとこ?って行ってみたら…
ベッドの上で丸まって何もかけないで寝てた。
沙奈のことだから、もしかしてここで座って待ってた?
勝手ににやける顔をそのままに、もこもこの服着てすやすや言ってる沙奈に近づく。
随分安らかな寝顔だこと。
鼻先をつっついたら、ムニャムニャ言って、少し笑みを浮かべて…
「杉崎さん…お帰りなさい。」
うん……ただいま。
あぐらをかいて、ベッドに両腕置いて顔をその上に置いて…しばらくその寝顔を眺めてた。
…慣れたよね、だいぶ。
最初ここに来た時は、怯えてたのに。
まあ、俺が怯えさせたっつー話だけど。
だけど、あの時は色んな意味でそれが必要だったから。
俺にとっても沙奈がどう出るか、ある意味博打の荒療治だったけど。
「…シャワー浴びよ。」
横にあったブランケットを沙奈にかけてあげて立ち上がり、ネクタイを少し緩めてから、ポケットに入れっぱなしだったスマホを取りだした。
あ、唯斗からメッセージ来てた。
『お疲れ。先方とやり取りして詰めるから、明後日悪いけどよろしく。』
…高橋課長もまた立ち会ってくれるって言ってたし、これで解決かな、トラブルは。
『杉崎さん、ありがとうございました!』
『本当に助かりました!』
大木と前島からもそれぞれメッセージ。
そして………
『(ハルカ……NYへ帰って来て。やっぱり私にはあなたが必要なの。)
「……。」
英文のメッセージが羅列された吹き出しの横の“Lily”の文字を一瞥して、返信はせずにそのままスマホを閉じて、シャワーを浴びに風呂場に向かった。
シャワーを頭の上から一気に浴びると、じわじわと身体を温めて、汗を流してく。
一気に込み上げた疲労感。
沙奈の感触がどうしても欲しくなり、それがもうすぐ叶えられるって思ったら気持ちが逸り出して乱暴に髪を洗う事でそれを誤魔化した。
……いい加減、がっつくの止めないと出てっちゃうかな、沙奈。
お金も極力使わせないようにしてたから、来月の返済で俺への借金も返し終わるしね。
そうなれば沙奈は自由。
俺が捕らえる権利なんてもう無くなる…もんな。
部屋に戻ってみると、相変わらずベッドの上で丸まって寝てる姿。
沙奈の部屋から布団を持ってきて、俺も隣に寝っ転がった。
腕を伸ばしてその身体を抱き寄せて、おでこをくっつけてみたら、またムニャムニャ言って微笑む沙奈。
「杉崎さん…おかえりなさい。」
「…それ、さっき聞きいたよ?」
寝言に一応突っ込んで。
それから目を閉じる。
もこもこの沙奈の抱き心地は最高で、何か同じシャンプー使ってるはずなのに良い香りで、安心する。
……やっぱり無理だわ。
この人に対してがっつくなっつーのは……
全く欲に勝てない自分を心ん中で肯定しながら微睡みに誘われてく。
…沙奈を捕まえてから、もう6ヶ月。
目を閉じたまま、鼻をすり寄せ沙奈の存在を確かめる。
何度か俺から逃げるチャンスもあったのにここに居てくれた…
そんな心許ない事実に希望を見いだしながら眠りに落ちた。
.



