切恋memory

チョコを持ってくるなと須藤先生に言われたけど、

学校でしかチャンスがない。

だから、こっそりランドセルに入れてきてしまった私。

約束を破ってしまったことは申し訳ないけど、今日だけはどうか見逃して。

先生の注意が及ばない放課後、私はドキドキしながら、

提出物を職員室に届けにいった君を待つ。

数分後、昇降口に君の姿が見えると、私の緊張はピークに達した。

震える唇を開―――。



「れあちゃ~ん!」



その時、他クラスの友達―――心雨(みう)に捕まえられ、

声を掛けるタイミングを完璧に逃してしまった。

私は、思わず拍子抜け。

同時に、怒りも込み上げてくる。

渡す、つもりだった。

心雨は違うクラスだから知らなかっただろうけど、

こんなに大事な瞬間を邪魔しないでよ……。

もともと心雨に苦手意識があった私は、苛立ちが高まっていった。

けど、どこか冷静な自分もいる。

……諦めて、来週にしよう。

見守ってくれていた女子たちに

この判断を伝えて、

下校―――するつもりだった。

綾羽ちゃんが私の前に現れた。



「やめちゃうの? 今ね、らい呼び留めてるよ」

「え、」



綾羽ちゃんの視線の先には、

必死に話を繋げて帰る時間を遅らせている女子たちと、檎人くんの光景があった。



「今日のこのチャンスは二度と来ないよ」

「檎人帰っちゃうよ?」



美ちゃんにも説得されて、私の決意はガタガタに揺らぐ。

すると、女子たちが檎人くんをうまく誘導し、私の方へ連れてきた。

周りを取り囲み、逃げ道を塞ぐ。

なんと、円の真ん中で、私と檎人くんが対面する形に。



「なんすか?」



―――もう、いくしかない。



「は、はいっ!」



私は急いでチョコを取り出し、半ば押し付けるように渡した。

返ってきたのは、"ありがとう"という言葉。

心なしか、照れているように聞こえた。

……のは、気のせいだよね。

その後はもう、祝福の嵐。

「れあちゃんやったね!」「勇気出したね!」と、女子たちが順番に抱きついてくる。

大勢の前で、少し恥ずかしかった。