頭が
回らなかった
「─────……」
思考回路がうまく回らなくて足を止めてしまう俺に、更に二人の会話が流れてくる。
「………あたし……
辛かっ……た………
耐えられなかったの……
純が遠くに行ってしまうのが────……
……もう、生きていけないと思った……」
「だからってそんなウソ付いて何になるのよ?!?!
あんた“純がいないと生きていけない”とか言って、純を苦しめながら毎日普通に生きてたんでしょう?!?!
───違う!?」
「………………」
「本当に生きる気力もなくて死にたいのなら、普通に生活なんか出来ないわよ!!
あんたが今“生きてる”って事は、毎日ご飯食べて寝て………
普通に生活してるんでしょ!!!!
生きたいからそうしてるんでしょう!!!!
“純がいないと生きていけない”なんてそんなの言い訳よ!!!!」
「……………」
「それに………
“妊娠した”なんて真っ赤なウソ、どうしてそんな卑怯な手を使うの?」
「…………それは………
もうこれしか方法がなくて……
どうしても振り向いて欲しかった………
それだけなの………」
─────パンッ!
空気が渇いた音がした。
「────あんたバカじゃないの?!
そんな事して何になるの?!?!
そんなの純の優しさにつけ込んでるだけじゃない!!!!
ウソで妊娠を最終手段にするなんて女として最低よ!!」
「……ごめん……なさ………っ」
────……キィ…………
「─────純……?」
「……………………」
────開いたドア。
「………………」
そこには無言でその光景を見つめる俺がいた。



