「……朝…岡さ…ん…」
そう俺の名を呼び返した彩の瞳からは大粒の涙が頬を流れていた。
一体───…
何でだ?
どうしたと言うんだ。
さっきまであんな幸せそうに笑っていた君が。
「……どないした…?」
それくらいしか、頭から言葉を拾えなかった。
だけどそんな俺の一言で、たちまち彩の瞳に海が出来ていく。
「……なん…にも…ない…」
彩は瞳を逸らし、顔さえも俺から背けた。
────まただ。
また瞳を逸らす、君の癖。
それが“嘘”って事、自分で気付いてるか?
「──…泣いてるのに?」
何もなくて涙が出るか?
それなら俺は逆に、
何もないのにどうして涙が出るのか理由が聞きたいよ。
涙には必ず理由がある。
涙こそ、自分の気持ちの塊じゃないか?
なぁ、そうだろ?
「…………」
彩はハッとしたように俺を見つめたが、再び顔を逸らした。
それが、俺の逆鱗に触れた。
これじゃ、見て見ぬフリをした“あの日”と一緒だ。
何で俺を避ける?
俺じゃ頼りにならないのか?
話せよ。
話してくれよ──…っ
「吾郎、ちょっと先行っといてくれへん?」
「えっ?
純、ちょっ……」
「後でまた合流するから。」
吾郎にそう告げると、俺は彩の手を取って歩き出した。
「朝岡さん…っ!
いいよ、彩の事は放っといて友達と……」
「──放っとけるか」
「……………っ」
今度こそ、見逃してたまるか。
振り向きもせず。
俺は苛々を静めるように、そう言い放った。



