……落ち着け、落ち着け俺。
万が一ここで焦って取り乱したりでもしたら、それこそぶんの思うツボだ。
「チカ、この子が前から話してる彩。」
…俺はとりあえず笑顔で彩を紹介する。
「初めまして…
桜井 彩です。」
「あっ、この子が彩ちゃん?
初めまして♪
チカです♪
純から色々聞いてるよー★
彩ちゃんの事♪」
「えっ?!」
彩は驚いたようにチカと俺を見つめた。
きっとチカは、彩が描いたあのイルカの絵の話をしているのだろう。
「チカ、別にそんなん話さんでえーやろ」
「えー、だって…
あたしが妬くくらい彩ちゃんの話ばっかりするじゃーん」
チカが言った冗談に本気で笑えなくて、俺は貼り付けた笑顔が剥がれそうになった。
「ぶんちゃんも元気っ?」
「はい、チカさんも元気そうで何より♪
また部活に顔出して下さい。」
「うん行く行く!
近々行こうとしてたんだぁ♪」
「朝岡さんと一緒に来て下さいね。
待ってますから♪」
「うん!!」
“朝岡さんと
一緒に来て下さいね”
────……
裏を読めば
“絶対に
『彼女』のチカさんと一緒に来て下さいね?”
……そう言っている、俺宛への言葉の槍。
「──────……」
─────絶句した。
返す言葉がとてもじゃないけど見つけられない。
初めから頷くしか用意されていない無駄な選択肢。
─────負けた。
……本気でそう思った。
情けなかった。
首を振るどころか、
今まで保っていた笑顔の仮面も、
今は
醜い鬼の面へと変わっているかもしれない。
……だから
会いたくなんかなかったんだ。
………惨めだ………



