「……あたし……
簡単に言うとね、純を忘れたかったの…」
「………」
チカは未だに俺と視線を合わせようとはせず、ポツリポツリと心境を語り出した。
「……忘れたくて、忘れたくて……
手当たり次第に色んな人に声掛けたり、掛けられたり……
……そんな中で、ある人に出逢ったの。」
「それがマリアが見かけたって言ってたやつか?」
「……多分そうだと思う。」
チカはグスンと鼻を鳴らし、続きを言いたいような、言いたくないような目をしている。
チカの背中を撫でながら、俺は安心させるような表情を心掛けた。
「──…それで、その男とどうなったん?」
そう言うと、チカはビクッと肩を強ばらせ、再び涙を滲ませながらムリヤリ笑った。
「……一緒に暮らし始めた…」
「───…………」
ある程度予想は付いていたが……
驚きを隠せたかどうかは定かではない。
何故なら、チカが出会ってすぐに心を許すとは思わなかったから。
長年の付き合いだから、それくらいは俺にも分かる。
「──……でもね……」
「ん?」
「……その人……
ちょっと暴力団系に入ってて……」
「…………」
「──お金……
ぜ……っ
全部盗られちゃって───……
“もうお金ない”って言ったら……
な……殴られて風俗に売り飛ばすっていわれて──…」
……………は…………?
「だから怖くて怖くて逃げ出して来たの──…
気がついたら……
純の家の近くまで無意識に走ってた──……」
ポロポロと涙を零し、そう伝えたチカ。
……その手には、残高0の通帳が握り締められていた。



