日当たりの悪い校舎裏には、生徒どころか教師も寄り付かない。

 伸びた雑草を前にして冷たいコンクリートの上に座る男女は、端と端の対極にあるようで、同じ枠組みに当て嵌められるような気もした。


「あ、予鈴なった。午後もさぼり?」

「てめえもだろ」

「やだなあ、同じにしないでよ。わたしはね、偉いから午前は出たよ」


 動く気のない2人は微風に吹かれている。

 制服をかなり着崩した粗暴な見た目の男は無意識に吊りあがった目で横を見たが、飄々として嫌味さえも軽く受け流す女には無駄だと口を閉じた。


「あ〜、いい天気だねえ」


 陽光の入らない日陰で〝天気がいい〟などとほざく女は頭がイカれている。傷んだ髪を手で掻き上げる男は、この世を舐め腐ったような軽薄な笑みを常に携えてる女に内心舌打ちを零した。

 仲がいいとは言い難い。けれど、隣同士で座る2人は同じ時間を共有している。

 男のポケットから勝手に煙草のソフトケースを取りだして、手持ちのライターで火をつけた女は吸い慣れた口で白い煙をぷかりと吐き出した。


「人の煙草吸うなら金払え」

「別にいいじゃん。たかが一本くらいでケチなこと言わないでよ」

「殴るぞクソ女」

「もう〜、物騒だなあ。ならわたしの吸う?」

「……持ってんなら人の吸うな」


 女の自由奔放な性格、いや唯我独尊な態度に男は呆れる。諦めにも似た音色で言葉を返してから、自身も煙草を銜えた。

 この校舎裏で出会い、まるで旧知の仲のように話しかけてきて、不遜に人を振り回す女だ。

 自毛のように見えて、実は綺麗に染められている滑らかな女の唐茶の髪を横目に、男は「てめえを優等生と思ってる教師は馬鹿にも程がある」と言い捨てる。

 そんな男の独白じみた言葉をきちんと拾った女は嘲笑にも似た表情をして、男の端正な顔立ちをわざと覗き込んだ。


「わたしはね、君みたいに下手に生きたりしてないんだよ。第一印象で〝良〟を与えて、要領よく必要な役をこなすの」

「……はっ、めんどくせえ委員長なんて役職をか?」

「ふふ、誰もやりたがらないでしょ? でもクラスの雰囲気を操れる大事なポジションなんだよ。目立たない面倒な仕事は誰かに振り分けて、人目に付く事は率先してやる。それである程度の自由を得られる」

「性格おわってんな」

「最大の世辞をどうもありがとう」


 とんだクソ野郎だ、と男は女を軽蔑しながら短くなった煙草をコンクリに押し付けて消す。

 毛先をくるりと巻いて、自分を最大限よく見せて教師たちにも糾弾されない程度の化粧をしてる女の本性はつくづく最悪だ。

 ……それでも、ふたりは離れない。