〇小山内家・心春の自室(朝)
鏡の前で蒼司とのお出かけに着ていく服を悩んでいる心春。
①トレンチコート、シックな花柄のシャツ、黒のスカートのコーデ。
心春「これかな…?うーん…気合い入れすぎ…?」
②全体的にリボンがあしらわれたワンピースと白いカチューシャのコーデ。
心春「……子供っぽい!」
③白シャツとジーパン、ヘアピンのボーイッシュでカジュアルなコーデ。
心春「無難すぎるかな……いや、もうこれでいこう!…って時間やば!」
時計を見て驚いた心春は、ティッシュやハンカチ、スマホなど必要なものをバックに詰め、カーディガンを羽織ると、バタバタと階段を駆け下りていく。
その音に反応した母がリビングから顔を出す。
母:本名・小山内 春子。二人の娘を育てる肝っ玉母さん。さっぱりしている。
母「ちょっと心春ー朝から騒がしいわよー」
心春「ごめーん!行ってきまーす!」
バタン!と音を立てて玄関を閉めると、ダッシュで走っていく心春。
姉・千春が自室から起きてくる。
千春「ふわぁぁ……あんなに気合い入ってるとか、もしかしてデートぉ?」
母「まっさかあ」
〇駅前(昼)
カフェの最寄り駅で待ち合わせをする約束をしている心春。
× × ×
(回想)
昨日の帰り道―…
蒼司「駅前に11時集合で良い?」
心春「了解です!」
× × ×
腕時計を見ると、針が10時54分を指している。
心春「よし、五分前集合の一分前到着…!」
心春がガッツポーズをしていると、きっかり一分後、相変わらずキラキラとしたオーラを放つ蒼司がやって来る。
心春(モ…モデル……?アイドル…?)
蒼司「ごめん。待たせた?」
蒼司に見惚れていた心春は声をかけられてハッと我に返る。
心春「いっ、いやいや!さっき着いたばっか!」
蒼司「そ?じゃ、行こ」
心春「うん」
流れで隣を歩いていたものの、周りから感じる視線に耐え切れず蒼司の一歩後ろに下がり、やや距離を取って歩く心春。
心春(なんかデートしてるみたいで落ち着かない………って何考えてるの私!そういうのじゃないから!そもそも皆そんな目で見てるわけじゃないし!藤崎君がかっこいいだけだから!)
セルフつっこみを入れていると、蒼司の鞄についた大量の缶バッジが目に留まる心春。
心春「!?」
鞄と顔を交互に見比べながら、驚きを隠せていない心春。
心春「藤崎君、これって『天使な四姉妹』の限定缶バッジ?」
蒼司「あ、そう。よく知ってるね」
心春「もちろん!だってこの缶バッジ買うために早朝からショップに長蛇の列作ってた写真、今でもSNSで流れてくるし…めっちゃレアものじゃん!」
蒼司「(やや自慢げに)ちなみに俺はその最前列にいた」
心春「流石…!」
蒼司「俺、好きな人(※萌奈/二次元の嫁)には愛重いから」
自分のことではないと分かっているのに、心春の胸はドキッと音を立てる。
しかしその感情の名前を考える間もなく……
蒼司「はい、到着」
心春「おおー!」
コラボカフェに到着する二人。
〇コラボカフェ店内
席についた心春と蒼司は向かい合うように座っている。
心春「何食べる?」
蒼司「これとこれとこれとこれとこれ」
心春「そんなに食べきれる!?量も多いし、お金も…」
蒼司「バイトしてるし、お金は大丈夫。量も何とかする。絶対に自力で萌奈のコースター当てたいから」
心春「そ、そっか…!」
心春(愛重っ……!)
× × ×
店員「お待たせしました~」
可愛いご飯やスイーツ、ドリンクが机の上に置かれていく。
二人「おおおっ…!」
蒼司「萌奈のコースターだ…!」
心春「わー!おめでとう!」
興奮した面持ちで、パシャパシャと料理の写真を撮る二人。
心春「(楽しそうに笑って)全部美味しそうだし、可愛いね!」
そんな心春の笑顔を見た蒼司はポツリと呟く。
蒼司「なんか、デートみたい」
心春「……へ?」
蒼司「高校生の男女がカフェでご飯とか、少女漫画で何千回と見たことあるシチュエーションなんだけど」
心春「いっ……いやいやいやっ!ここカフェっていうかコラボカフェだし!デートというよりかは、オタ活じゃない!?」
蒼司「まぁ、そうだけど。んー…今後の漫画の参考になりそう……」
何も気にせずに黙々とご飯を食べ始める蒼司を見て肩を震わせる心春。
心春(少女漫画読んでるなら、その思わせぶりな台詞を聞いて女子がどう思うかくらい分かれーい……!!)
照れと動揺を隠すために高速でご飯を掻き込んでいると、ご飯を喉につまらす心春。
心春「ぐっ……」
その様子を見た蒼司が水を手渡すと、心春は一気に水を飲んで流し込む。
心春「あ、ありがと…助かった」
蒼司「まだ時間あるし、ゆっくり食べれば?」
心春(誰のせいだと…!!)
心春「……藤崎君って、もしかして天然?」
心春がそう問うと、蒼司は理解不能という表情を浮かべる。
蒼司「そんなわけないだろ」
〇歩道
カフェの帰り、街をぶらぶらと歩いている二人。
小春「いや~!食べた~!」
蒼司「流石にもう食べれないわ……」
小春「ね、私も一週間分は食べた気がする…」
蒼司「ていうか、これからどうする?」
心春「うーん……」
心春(そういえばカフェ行く以外の予定何も決めてなかったなぁ。このまま解散しても良いけど、流石に早すぎるよね……)
心春が悩んでいると、二人が進む先に本屋が見えてくる。
本屋には今日発売の漫画一覧が掲示されている。
それを見た心春は、その中に『君色バスケットボール』というタイトルを発見。
心春「あ!そういえば今日『君バス』の新刊発売日だ!」
蒼司「ほんとだ。寄ってく?」
心春「…!寄ってく!」
〇本屋
本屋に入った二人は、漫画コーナーへと向かう。
蒼司「お、あった」
本に手を伸ばす蒼司を横から見て、その姿を以前出会った少年と重ねてしまう心春。
心春(なんか…デジャブを感じる……)
心春「あの…藤崎君って本屋で誰かと同じ漫画雑誌を取ろうとして、手が重なっちゃた経験とかある…?」
蒼司「手?」
まるで心当たりがない様子の蒼司を見て、羞恥心で真っ赤になる心春。
心春(勘違いだったかな!?恥ずかしい…!!)
心春「ごめん変な事聞いて!忘れて!」
すると何かをふと思い出したように手を叩く蒼司。
蒼司「あ、思い出した。そういえばこの前そんなことあったわ。あーあれ小山内だったんだ。何かめっちゃびっくりしてたよな」
心春の恥ずかしいゲージがMAXになり、茹でダコ状態(全身真っ赤)に。
心春「本当に忘れてー!!」
店員「お客様、お静かにお願いします」
心春「すっすみません!」
蒼司は慌てる心春を見てくすくすと笑っている。
× × ×
書店員「ありがとうございました~」
店から出てきた二人。
各々の手には漫画雑誌が入った袋が握られている。
蒼司「この前『君バス』語ろって約束したしさ…今から読んで感想会する?」
息を呑み顔を輝かせる心春。
心春「する!」
〇公園(昼~夕)
公園のベンチに腰掛け、袋から漫画を取り出す二人。
心春(う、うわ~…何も意識せず隣座っちゃったけど、男女で一つのベンチに座るとか、普通にやばいよね…!?)
高鳴る心臓の音を隠すように胸を抑え、片目でちらりと横を覗くと漫画にお祈りをしている蒼司が見え、一気に冷静になる心春。
心春「藤崎君…?何してるの?」
蒼司「この崇高な創作物と、それを生み出してくれた全ての人への感謝を捧げてる」
心春「なるほど…(?)」
未知の生物に出会ったような驚きの表情を浮かべながらも、肩の力が抜けていくのを感じる心春。
心春(何か、気にしすぎなくても良いのかもしれない)
心春はくすりと笑うと同じように手を合わせた後、漫画を読み始める。
読んでいる時はお互い無言で、集中している。
心春は主人公に感情移入して笑顔になったり涙を流したり悔しがったりと忙しい。
普段は余裕のある蒼司も表情がころころ変わっている。
二人は同時に読み終わると、次の瞬間熱く語り出す。
心春「(該当ページを開いて)ここの展開やばくない!?」
蒼司「いやまじで分かる。トーンの使い方とか上手すぎるし、描きこみもえぐいよな」
心春「次のさ、ここのページ大好き!」
蒼司「あ、俺も好き!」
心春「主人公の恋心が加速していく描写と、ヒーロー対ライバルの試合のカウントダウンが重なってこっちまでドキドキしてくるし、ヒーローがゴール決めた瞬間主人公が恋心を強めたところ、スポ根とラブストーリーの両方のカタルシスがぐわーっと押し寄せてきて胸がいっぱいになっちゃったよっ…!!」
早口で感想を話す心春を見て、感心している蒼司。
蒼司「…小山内、言語化するの上手いな」
心春「え?そう…?」
蒼司「うん。言葉に出来なかった感想を的確に拾い上げてくれる感じ」
心春「(照れながら)あ、ありがと…そんなこと、初めて言われた」
蒼司は少し考える素振りを見せた後、口を開く。
蒼司「……ねえ、今度俺の漫画にも感想くれない?」
心春「藤崎君の漫画に!?」
蒼司「うん。今描いてるやつがそろそろ終わりそうだから。完成したら小山内の感想欲しい」
心春(そんなの…読みたすぎる!!)
心春「もちろん…というか、ぜひ読ませてください!」
蒼司「じゃあ来週くらいに渡せると思うから、よろしくお願いします」
心春「うん!」
ガッツポーズをする心春の横で、蒼司が前かがみになって両手を口に当てる。
蒼司「…でもネットの人と編集者さん以外に見せんの初めてで、ちょっと緊張してきた」
心春「……藤崎君でも緊張するの?」
蒼司「そうだよ。小山内は俺を何だと思ってんの?」
心春「何って…」
まずキラキラと輝いてクラスの輪の中心で笑っている蒼司を思い浮かべる心春。
心春(…ちょっと前までは完全無敵のイケメンだと思ってた。)
重度のオタクで、漫画好きで、天然で、人並みに弱みを持つ蒼司を思い浮かべる心春。
心春(でも今は……)
心春「普通のオタク…」
その発言を聞いた蒼司は驚いて目を見開いた後、盛大に吹き出す。
蒼司「ぷっ…普通のオタクって!あははっ!」
心春「ちょっ!何で笑うの…!!」
蒼司「間違ってない!間違ってないけど…!あはははっ!」
お腹を抱えて笑う蒼司を心春が顔を赤らめ、恨めしそうに睨んでいる。
蒼司はしばらく笑い続ける。
蒼司「(笑い涙を浮かべて)はー!笑った……」
心春「笑いすぎだって!」
× × ×
段々と日が暮れ、烏がカァカァと鳴く声が聞こえてくる。
蒼司「じゃあ、そろそろ帰る?」
心春「うそ、もうこんな時間!?」
二人がベンチから立ち上がったタイミングで蒼司が心春の方を見る。
蒼司「今日、めっちゃ楽しかった」
心春は嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
心春「私も!!」
〇駅前(夕)
駅構内に入っていく心春と蒼司。
和やかな雰囲気で歩いている二人だったが、その様子を遠くから不思議そうに見ている同じクラスの陽キャ女子四人組が。(たまたま遭遇した様子)
女子A「蒼司と……小山内さん?」
陽キャ女子四人組(女子A~D):よく蒼司の周りにいる一軍の女子グループ。おしゃれとSNSが趣味。
鏡の前で蒼司とのお出かけに着ていく服を悩んでいる心春。
①トレンチコート、シックな花柄のシャツ、黒のスカートのコーデ。
心春「これかな…?うーん…気合い入れすぎ…?」
②全体的にリボンがあしらわれたワンピースと白いカチューシャのコーデ。
心春「……子供っぽい!」
③白シャツとジーパン、ヘアピンのボーイッシュでカジュアルなコーデ。
心春「無難すぎるかな……いや、もうこれでいこう!…って時間やば!」
時計を見て驚いた心春は、ティッシュやハンカチ、スマホなど必要なものをバックに詰め、カーディガンを羽織ると、バタバタと階段を駆け下りていく。
その音に反応した母がリビングから顔を出す。
母:本名・小山内 春子。二人の娘を育てる肝っ玉母さん。さっぱりしている。
母「ちょっと心春ー朝から騒がしいわよー」
心春「ごめーん!行ってきまーす!」
バタン!と音を立てて玄関を閉めると、ダッシュで走っていく心春。
姉・千春が自室から起きてくる。
千春「ふわぁぁ……あんなに気合い入ってるとか、もしかしてデートぉ?」
母「まっさかあ」
〇駅前(昼)
カフェの最寄り駅で待ち合わせをする約束をしている心春。
× × ×
(回想)
昨日の帰り道―…
蒼司「駅前に11時集合で良い?」
心春「了解です!」
× × ×
腕時計を見ると、針が10時54分を指している。
心春「よし、五分前集合の一分前到着…!」
心春がガッツポーズをしていると、きっかり一分後、相変わらずキラキラとしたオーラを放つ蒼司がやって来る。
心春(モ…モデル……?アイドル…?)
蒼司「ごめん。待たせた?」
蒼司に見惚れていた心春は声をかけられてハッと我に返る。
心春「いっ、いやいや!さっき着いたばっか!」
蒼司「そ?じゃ、行こ」
心春「うん」
流れで隣を歩いていたものの、周りから感じる視線に耐え切れず蒼司の一歩後ろに下がり、やや距離を取って歩く心春。
心春(なんかデートしてるみたいで落ち着かない………って何考えてるの私!そういうのじゃないから!そもそも皆そんな目で見てるわけじゃないし!藤崎君がかっこいいだけだから!)
セルフつっこみを入れていると、蒼司の鞄についた大量の缶バッジが目に留まる心春。
心春「!?」
鞄と顔を交互に見比べながら、驚きを隠せていない心春。
心春「藤崎君、これって『天使な四姉妹』の限定缶バッジ?」
蒼司「あ、そう。よく知ってるね」
心春「もちろん!だってこの缶バッジ買うために早朝からショップに長蛇の列作ってた写真、今でもSNSで流れてくるし…めっちゃレアものじゃん!」
蒼司「(やや自慢げに)ちなみに俺はその最前列にいた」
心春「流石…!」
蒼司「俺、好きな人(※萌奈/二次元の嫁)には愛重いから」
自分のことではないと分かっているのに、心春の胸はドキッと音を立てる。
しかしその感情の名前を考える間もなく……
蒼司「はい、到着」
心春「おおー!」
コラボカフェに到着する二人。
〇コラボカフェ店内
席についた心春と蒼司は向かい合うように座っている。
心春「何食べる?」
蒼司「これとこれとこれとこれとこれ」
心春「そんなに食べきれる!?量も多いし、お金も…」
蒼司「バイトしてるし、お金は大丈夫。量も何とかする。絶対に自力で萌奈のコースター当てたいから」
心春「そ、そっか…!」
心春(愛重っ……!)
× × ×
店員「お待たせしました~」
可愛いご飯やスイーツ、ドリンクが机の上に置かれていく。
二人「おおおっ…!」
蒼司「萌奈のコースターだ…!」
心春「わー!おめでとう!」
興奮した面持ちで、パシャパシャと料理の写真を撮る二人。
心春「(楽しそうに笑って)全部美味しそうだし、可愛いね!」
そんな心春の笑顔を見た蒼司はポツリと呟く。
蒼司「なんか、デートみたい」
心春「……へ?」
蒼司「高校生の男女がカフェでご飯とか、少女漫画で何千回と見たことあるシチュエーションなんだけど」
心春「いっ……いやいやいやっ!ここカフェっていうかコラボカフェだし!デートというよりかは、オタ活じゃない!?」
蒼司「まぁ、そうだけど。んー…今後の漫画の参考になりそう……」
何も気にせずに黙々とご飯を食べ始める蒼司を見て肩を震わせる心春。
心春(少女漫画読んでるなら、その思わせぶりな台詞を聞いて女子がどう思うかくらい分かれーい……!!)
照れと動揺を隠すために高速でご飯を掻き込んでいると、ご飯を喉につまらす心春。
心春「ぐっ……」
その様子を見た蒼司が水を手渡すと、心春は一気に水を飲んで流し込む。
心春「あ、ありがと…助かった」
蒼司「まだ時間あるし、ゆっくり食べれば?」
心春(誰のせいだと…!!)
心春「……藤崎君って、もしかして天然?」
心春がそう問うと、蒼司は理解不能という表情を浮かべる。
蒼司「そんなわけないだろ」
〇歩道
カフェの帰り、街をぶらぶらと歩いている二人。
小春「いや~!食べた~!」
蒼司「流石にもう食べれないわ……」
小春「ね、私も一週間分は食べた気がする…」
蒼司「ていうか、これからどうする?」
心春「うーん……」
心春(そういえばカフェ行く以外の予定何も決めてなかったなぁ。このまま解散しても良いけど、流石に早すぎるよね……)
心春が悩んでいると、二人が進む先に本屋が見えてくる。
本屋には今日発売の漫画一覧が掲示されている。
それを見た心春は、その中に『君色バスケットボール』というタイトルを発見。
心春「あ!そういえば今日『君バス』の新刊発売日だ!」
蒼司「ほんとだ。寄ってく?」
心春「…!寄ってく!」
〇本屋
本屋に入った二人は、漫画コーナーへと向かう。
蒼司「お、あった」
本に手を伸ばす蒼司を横から見て、その姿を以前出会った少年と重ねてしまう心春。
心春(なんか…デジャブを感じる……)
心春「あの…藤崎君って本屋で誰かと同じ漫画雑誌を取ろうとして、手が重なっちゃた経験とかある…?」
蒼司「手?」
まるで心当たりがない様子の蒼司を見て、羞恥心で真っ赤になる心春。
心春(勘違いだったかな!?恥ずかしい…!!)
心春「ごめん変な事聞いて!忘れて!」
すると何かをふと思い出したように手を叩く蒼司。
蒼司「あ、思い出した。そういえばこの前そんなことあったわ。あーあれ小山内だったんだ。何かめっちゃびっくりしてたよな」
心春の恥ずかしいゲージがMAXになり、茹でダコ状態(全身真っ赤)に。
心春「本当に忘れてー!!」
店員「お客様、お静かにお願いします」
心春「すっすみません!」
蒼司は慌てる心春を見てくすくすと笑っている。
× × ×
書店員「ありがとうございました~」
店から出てきた二人。
各々の手には漫画雑誌が入った袋が握られている。
蒼司「この前『君バス』語ろって約束したしさ…今から読んで感想会する?」
息を呑み顔を輝かせる心春。
心春「する!」
〇公園(昼~夕)
公園のベンチに腰掛け、袋から漫画を取り出す二人。
心春(う、うわ~…何も意識せず隣座っちゃったけど、男女で一つのベンチに座るとか、普通にやばいよね…!?)
高鳴る心臓の音を隠すように胸を抑え、片目でちらりと横を覗くと漫画にお祈りをしている蒼司が見え、一気に冷静になる心春。
心春「藤崎君…?何してるの?」
蒼司「この崇高な創作物と、それを生み出してくれた全ての人への感謝を捧げてる」
心春「なるほど…(?)」
未知の生物に出会ったような驚きの表情を浮かべながらも、肩の力が抜けていくのを感じる心春。
心春(何か、気にしすぎなくても良いのかもしれない)
心春はくすりと笑うと同じように手を合わせた後、漫画を読み始める。
読んでいる時はお互い無言で、集中している。
心春は主人公に感情移入して笑顔になったり涙を流したり悔しがったりと忙しい。
普段は余裕のある蒼司も表情がころころ変わっている。
二人は同時に読み終わると、次の瞬間熱く語り出す。
心春「(該当ページを開いて)ここの展開やばくない!?」
蒼司「いやまじで分かる。トーンの使い方とか上手すぎるし、描きこみもえぐいよな」
心春「次のさ、ここのページ大好き!」
蒼司「あ、俺も好き!」
心春「主人公の恋心が加速していく描写と、ヒーロー対ライバルの試合のカウントダウンが重なってこっちまでドキドキしてくるし、ヒーローがゴール決めた瞬間主人公が恋心を強めたところ、スポ根とラブストーリーの両方のカタルシスがぐわーっと押し寄せてきて胸がいっぱいになっちゃったよっ…!!」
早口で感想を話す心春を見て、感心している蒼司。
蒼司「…小山内、言語化するの上手いな」
心春「え?そう…?」
蒼司「うん。言葉に出来なかった感想を的確に拾い上げてくれる感じ」
心春「(照れながら)あ、ありがと…そんなこと、初めて言われた」
蒼司は少し考える素振りを見せた後、口を開く。
蒼司「……ねえ、今度俺の漫画にも感想くれない?」
心春「藤崎君の漫画に!?」
蒼司「うん。今描いてるやつがそろそろ終わりそうだから。完成したら小山内の感想欲しい」
心春(そんなの…読みたすぎる!!)
心春「もちろん…というか、ぜひ読ませてください!」
蒼司「じゃあ来週くらいに渡せると思うから、よろしくお願いします」
心春「うん!」
ガッツポーズをする心春の横で、蒼司が前かがみになって両手を口に当てる。
蒼司「…でもネットの人と編集者さん以外に見せんの初めてで、ちょっと緊張してきた」
心春「……藤崎君でも緊張するの?」
蒼司「そうだよ。小山内は俺を何だと思ってんの?」
心春「何って…」
まずキラキラと輝いてクラスの輪の中心で笑っている蒼司を思い浮かべる心春。
心春(…ちょっと前までは完全無敵のイケメンだと思ってた。)
重度のオタクで、漫画好きで、天然で、人並みに弱みを持つ蒼司を思い浮かべる心春。
心春(でも今は……)
心春「普通のオタク…」
その発言を聞いた蒼司は驚いて目を見開いた後、盛大に吹き出す。
蒼司「ぷっ…普通のオタクって!あははっ!」
心春「ちょっ!何で笑うの…!!」
蒼司「間違ってない!間違ってないけど…!あはははっ!」
お腹を抱えて笑う蒼司を心春が顔を赤らめ、恨めしそうに睨んでいる。
蒼司はしばらく笑い続ける。
蒼司「(笑い涙を浮かべて)はー!笑った……」
心春「笑いすぎだって!」
× × ×
段々と日が暮れ、烏がカァカァと鳴く声が聞こえてくる。
蒼司「じゃあ、そろそろ帰る?」
心春「うそ、もうこんな時間!?」
二人がベンチから立ち上がったタイミングで蒼司が心春の方を見る。
蒼司「今日、めっちゃ楽しかった」
心春は嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
心春「私も!!」
〇駅前(夕)
駅構内に入っていく心春と蒼司。
和やかな雰囲気で歩いている二人だったが、その様子を遠くから不思議そうに見ている同じクラスの陽キャ女子四人組が。(たまたま遭遇した様子)
女子A「蒼司と……小山内さん?」
陽キャ女子四人組(女子A~D):よく蒼司の周りにいる一軍の女子グループ。おしゃれとSNSが趣味。
