私たちは恋がしたい

4話の続き

〇教室(夕)

速水「(伊桜の想いを受けて)……知らねえよ」
そう言って教室を出てくる速水が、廊下にいた菫に気付く。
それからバツが悪そうにしながら舌打ちをして菫の横を通り過ぎていく。
伊桜も菫がいることに気付いてはっとするが、声をかけられない。
菫(無理に笑うように)……来ないから、帰ったのかなと思って」
菫「あはは、ごめんね……なんか、私のせいで」
伊桜「あんたのせいじゃない」
菫「でも──」
伊桜「ごめん。嫌な思いさせて」
真摯に謝る伊桜。
菫「どうして朝凪くんが謝るの」
菫「(傷ついてはいるものの)それに、こういうこと初めてでもないんだ」
伊桜「は?」
菫「中学のときね、好きな人に告白したことがあったんだけど」
菫「そのときに”少女漫画っぽく振らないといけないやつ?”って言われて」
伊桜、驚きで目を見開く。
菫「それで少女漫画卒業したらよかったんだけど」
菫「やっぱり好きなものは好きだし、別にいいって……そう思ってたんだけど」
【人前で話すのが怖くなったのはこの頃だ】
【好きな人にからかわれたみたいに、皆もそう思ってるんじゃないかと怖くなって】
菫「あ、でも朝凪くんは最初から笑わないでいてくれたよね」
伊桜「笑わない」
菫「……え?」
伊桜「笑うとこじゃない」
あまりにも真剣な眼差しで見つめられて、ドギマギする菫。
菫「うん、みんながみんなそうじゃないって分かってる」
菫「だけど、いざ人を前にするとあのときのことを思い出して怖くなって」
伊桜「それでいい」
菫「え」
伊桜「俺のことも苦手なままでいい」
伊桜「怖いなら、無理する必要なんてない」
伊桜「だけど、あんたが──」
伊桜「水縹が好きなものを俺は馬鹿にしないから」
じっと見つめられて、どきっとする菫。
菫「……さっきの、聞こえちゃったんだけど」
菫「真剣だって」

〇回想シーン
伊桜『俺は真剣なんだよ』
〇回想終了

菫「それって……」
伊桜「それは──」
そこに、教室の前を通りかかった女子生徒二人の姿。
女子生徒1「あれ? 伊桜くんだ」
菫(あの子たち、よく朝凪くんと話してる)
女子生徒2「ちょうどファミレス行こって話してんだよ」
女子生徒1「一緒に行こうよ」
伊桜「いや、俺は──」
菫「じゃあ私は帰るね」
伊桜「は?」
そそくさと帰るように「失礼しましたあ」と笑顔を張り付けて教室を後にする菫。
ひと気のない廊下の突き当たりまで来ると、立ち止まって天井を仰ぐ。
菫「聞いといて……答えが怖くなるって(失笑するような感じで)」
【私が好きなものを馬鹿にしないって言ってもらえてうれしかった】
【だからこそ、期待してしまいそうだった】
菫(朝凪くんが私のことを好きかもなんて……)
菫(そんなわけない)
速水が言っていた「朝凪なら選び放題じゃん」が頭にこびりついている。
菫(……さっきの子たち、可愛かったなあ)
菫(キラキラしてて、朝凪くんとも対等で……)
そのとき、スマホに新刊のお知らせ情報が表示される。それを見て、画面を消す。
菫(……そうだ、今日って”いまこい”の発売日だ)
【いつもなら日付変わってすぐにゲットしてたのに】
【忘れるぐらい、現実で忙しかった】

〇教室(昼)

翌朝、見るからに落ち込んでいる菫。机に伏せているのを心配して、ちょいちょいとつつく風香。
風香「私への相談タイムはまだ必要ないの?」
菫「……ごめん。自分でもよくわかってなくて」
風香「謝ることないけどさ、菫が元気ないとこっちまで気分上がらないっていうか」
菫「ごめん……迷惑しかかけてなくて」
風香「大袈裟だから」
そこへ「朝凪!」と登校してきたばかりの彼に女子生徒が声をかける。
女子生徒1「ねっ、ちょっと放課後時間ほしいんだけど」
朝凪「なんで」
女子生徒1「いいじゃん、話したいことあるし」
そんな会話を顔を上げる度胸はなくとも聞いている菫。
菫(話したいこと……なんだろう)
菫(私も朝凪くんとちゃんと話さないといけないのに)
【あのときの答えを聞くのが怖くて逃げた】
【それなのに、ずっと気になったままだ】

〇廊下(夕)

菫(やっぱり今日は風香に相談乗ってもらえばよかった)
菫(あ、でもバイトだから教室からダッシュで帰ったんだっけ)
一人でトボトボ廊下を歩いていると、朝凪と仲がいい女子生徒二人とすれ違う。
女子生徒1「まじで告んの?」
女子生徒2「だって本命にしてほしいんだもん」
菫(え……)
思わず立ち止まって振り返る。
女子生徒2「最近ノリも悪いんじゃん? だったら本気で付き合ってほしいっていうか」
女子生徒1「うわあ、関係壊れたらどうすんの」
女子生徒2「それは考えたくない~」
ゆっくりと前を見て、一歩、また一歩と昇降口へと向かいながら頭の中で考える。
菫(もし、朝凪くんが誰かと付き合うようになったら)
菫(それは本当の恋が見つかったってことで)
菫(私は応援するべきで)
菫(……応援、できる?)
どん、とぶつかって「ご、ごめんなさい」と慌てて謝る菫。しかし相手は無反応。
見上げると、そこには速水の姿が。
菫「あ……」
瞬間的に昨日のことを思い出して、顔が青ざめていく。
菫(まさか、速水くんにあんなこと思われてたなんて……)
速水「言い過ぎた」
菫(……え)
速水「昨日の。別に傷つけたかったわけじゃないから」
意外にも謝られたことに困惑する菫。
速水「まあ、あのまま水縹さんに近づいてたら、結果的にそうなってたかもしれないけど」
菫「ど、どうしていきなり……」
どこか言いにくそうに、速水は後頭部をかく。
速水「本気なのかって聞かれたから」
菫「え?」
速水「朝凪に。水縹さんのこと、本気じゃないなら近づくなって」
菫(うそ……そんなこと言ってくれてたの?)
速水「なんか喧嘩腰だったから、ちょっとイラッとしたっていうか」
速水「どこから聞いてたかわからないけど、ああいう言い方になった」
速水「ごめん」
律儀に謝られて困惑するものの、へらりと笑う。
菫「気にしてないから、大丈夫」
速水「……そ」
速水「告白も、本気じゃないから」
速水「朝凪と二人で図書室に残ってんの見かけて、面白半分で言っただけ」
菫(そういえば、速水くんに告白されたのって図書室を出てからだっけ)
すると、後ろから強引に引き寄せられるような感覚でバランスを崩す菫。見上げた先には、軽蔑したような目つきをする伊桜の姿。
伊桜「なに」
速水「……彼氏面かよ」
ふっと鼻で笑うような速水に「お前が言うな」と鋭く突っ込む伊桜。
速水「昨日のこと話してただけ」
伊桜、「本当なのか?」というような目で菫を見る。
菫「ほ、本当だよ……! 和解したというか」
伊桜「……ふーん(納得いかなさそうな顔)」
速水「わざわざ見せつけてくんなよ」
そう言って去っていく速水に慌てて「あ、ありがとう!」と伝える菫。
速水「え、なんで」
菫「ええと……悪いなって思ってくれたから、かな?」
速水「……なにそれ」(ここで菫に恋愛感情を抱きかけるような表情)
今度こそさっさと行ってしまう速水の背中を見送りつつ「あれ」と菫が気付く。
菫「朝凪くん、呼び出し受けてたんじゃ……」
伊桜「ああ、これから」
菫「え……あ、そっか」
ムリして笑おうとするが、失敗して俯く。
菫(これから行って、もしかして告白をOKする?)
伊桜「あいつのことでなんか言われたら俺に言えばいいから」
菫「(小声で)……かないで」※行かないでと言いたい
伊桜「え?」
菫(嫌だ……誰とも付き合ってほしくない)
菫「私、朝凪くんのことが──」
女子生徒(美少女)「伊桜?」←伊桜の彼女たちの中で、最も本命に近いと言われていた女子生徒が登場。