はぁはぁはぁ、わたしは肩で大きく息をしながら通学路を走っていた。1週間前におろしたローファーはまだ慣れなくて、かかとが痛い。同じ制服を来た子達の間をジグザグ交差しながら進み、校門を潜ろうとしている背中を呼び止める。

「ユリせんぱーい! おはようございます!」

 響き渡る声に先輩はハッと振り向き、あきれた顔をした。

「もう! 綿貫さんってば。人の名前を叫ぶものじゃないわ」

 腰まで伸ばしたサラサラの黒髪を払い、わたしが側に寄るまで待ってくれる。

「はぁはぁ、すいません。昨日あれから色々調べちゃって」

 膝に手を置き、前かがみになり呼吸を整えた。するとハンカチが差し出され、ふわり、良い香りが漂う。

「ほら汗を拭きなさい。キャンディガール候補生としての自覚をお持ちになって」

「あ、は、はい!」

 キャンディガールという響きに背筋を伸ばす。

「ふぅ、あなたって返事だけはいいのよね。それでは放課後いつもの場所で待ち合わせましょう」

「はい! 私、予習してきましたから!」

 ユリ先輩はまたあきれた顔をしたけれど、頷く。それからスカートをヒラリとひるがえして校舎へ入っていった。