灰を被らないシンデレラ




はっきりと言われた訳ではないが、おそらく目の前のこの男は沙里奈に弱みを握られるか何かで自分の行動をつけ回していたのだろう。

憂は自分に対する悪意や欲を含んだ視線には敏感だが、それ以外は疎い自覚はある。

男の存在に気付けなかったのはそのどちらも持っていなかったからだ。


「償い…なんかにはならないんですが、一つだけ伝えておきたくて」
「何でしょう」


男は袖でグッと目元を拭い、真っ直ぐに憂を見て言った。


「おそらく近いうちに、沙里奈さんは一宮さんに直接会いに行きます。だから、きちんと旦那さんと話し合ってください」
「……」
「僕が言うのも何ですが…彼女は目的の為なら何でもします。旦那さんを奪う為に何をするか分かりません」


伝えたかったのはそれだけです、そう言って男は最後にもう一度深く頭を下げて逃げるように店を出て行った。