「そうね、じゃあ単刀直入に言います。柊をーー私の恋人を返して欲しいの」
「…っ、」
やっぱりか、と咄嗟に思った。
見知らぬ女がこうして自分に声をかけてくる理由など一つしか思いつかなかった。
「恋人って、返すってなんですか。…私、貴女から奪った覚え無いんですけど」
なんだろう。この女怖い。
背中に氷でも入れられたような冷たい感覚がずっと抜けない。
これほどまでの静かで鋭い敵意は初めてだった。
「貴女はそうかもね。でも確かよ、私達は愛し合ってたの」
「…それを聞いて私が応じるとでも?」
この女の言葉がどこまで本当か分からない。
本当に愛し合ってたとしたら、なぜ別れたのか。
政略結婚だとしても、この結婚を持ちかけてきたのは柊からだ。
彼の自分への執着ぶりからも、簡単には信じられない。
憂の揺るぎない態度を見て気を悪くしたのか、一瞬女から表情が抜け落ちた。
その顔はゾッとするほどに恐ろしかったが、直ぐに穏やかな笑顔へと戻った。



