教室の後、直ぐに香里とは別れた。
彼女はこれからバイトらしく、今日は少し時間が長引いた事もあって挨拶もそこそこに慌てて帰って行った。
そんな香里を見送り、憂としては微妙な出来のケーキを片手に駅に向かって歩き始めた時だった。
「一宮憂さん?」
ほとんど呼ばれる事のないフルネームを呼ばれ、憂の体は無意識にビクリと跳ね上がった。
声のかけられた方を見れば、亜麻色のショートカットがよく似合う美女が立っていた。
「突然声をかけてしまってごめんなさいね。私、こういう者です」
警戒心を解く事なく差し出された名刺を受け取れば、有名企業の部長と書かれた下に彼女の名前らしき文字が並んでいた。
「尼崎沙里奈です」
彼女は優しそうな笑顔を向けていたが、その目は欠片も笑っていなかった。
「…私に何か?」
少し距離をとりながら低い声で聞けば、余裕のある笑顔でクスクスと笑う。



