灰を被らないシンデレラ





「お疲れ様です、一宮社長」


柊だ。あとは社員らしきメンバーが数名。

市塚に声をかけられた柊はこちらに視線を向けると、誰だお前はと言いたくなるような優しい笑顔を見せた。


「お疲れ様。今日は研修の日だったね」


にこりと愛想よく微笑み、伊達眼鏡の奥の瞳を柔らかく細めて「よろしくね」とバイト達に声を掛けると、その後一緒に入ってきた数名と何かを話しながらその場を離れ店内を回り始める。


「うわ…イケメン…」


思わず漏れてしまったのだろう、隣にいた若い女が呟いた。

そう思っても当然だと思えるほど柊の王子様と呼ばれる擬態は完璧だった。


擬態と表現するのにはきちんと理由があって、あまりにも外での姿と自分への態度が違い過ぎるので、一度どちらが素なのかと聞いてみた事がある。
そうしたら「こっちに決まってんだろ正気かお前」と、信じられないものを見るような軽蔑の視線を向けられてからは彼の他所向きの姿を擬態と表現するようにしている。