灰を被らないシンデレラ



この男は本当に同じ血の通う人間なのだろうかとつくづく思う。
一体どこまで人の尊厳を踏みにじれば気が済むのか。


「お父様、私は…!」
「勘違いするなよ、憂」


何年かぶりに呼ばれた名前は、氷点下を思わせるほどに冷たい声だった。


「他に男をなんぞを作って消えた身持ちの悪い女の娘のお前を、ここまで何不自由なく育ててきてやったんだ。あの女のせいで我が社がどれほどのイメージダウンを被ったと思ってる」


ーーそんなの、私のせいじゃないじゃない。

何一つ悪くないのに執拗に責められ、悔しさで涙が出そうになる。


「あの阿婆擦れが残したその唯一まともな容姿で、せいぜい俺の役に立て」


話は以上だ、と吐き捨て何処かに電話をかけながら父親は部屋を出た。


「ーーっ、クソ親父!!」


そう叫びながら、憂はその結婚相手とやらの情報の載った紙束を床に投げつけ、これでもかと踏みつけた。

どれだけ叫ぼうと防音設備の施されたこの部屋には誰も入って来ない。
声が枯れる程叫んだ後、憂は床に崩れ落ちてひたすらに泣いた。


ーーこんなの、絶対に許せない。

掻きむしった髪はぐちゃぐちゃに乱れて視界を覆う。
そしてその隙間から見えた床に散らばった紙を見た時、一つの案が憂の脳内を巡った。

その瞬間に憂の心に炎が宿り、静かに燃え広がっていく。


「…っ、絶対、目にもの見せてやる…!」


操り人形になんてなってたまるか。

そう思い、ある決意を固めて部屋を出た。