ただ、一面の青。


「どいつもこいつもうざ」

心を休めたくて目を瞑る。耳を澄まして雨の音を聞いていたら、思い出したくもないのに菜乃花の顔が浮かんできて嫌になって目を開ける。

これじゃあ休まらない。

天井のシミでも眺めようとぼーっと真上を見ていたらまた浮かんできた。舌打ちをしてうつ伏せになっても浮かんできて、布団をかぶっても横向いてもまた浮かんでくるので諦めてベッドから降りた。


持て余した暇を本で潰そうかと近づいた本棚。一冊の図鑑が視界に入り、ほぼ無意識にそれを取り出す。随分触っていないから埃が被っていて、手で払うと小さく粉が舞った。

適当に捲ったページの丁度真ん中あたり。出てきたのは茶色く燻んだ押し花。

「汚ね」

心底思い出したくないと思っているのに、また菜乃花が思い浮かぶ。


この花がまだ綺麗な黄色だった頃。
これが菜の花だと教えた時の菜乃花の笑顔。その後の涙。

全部覚えてる。腹立たしいほどに。

菜乃花の記憶ばかり鮮明で本当に嫌になる。


舌打ちをしてその花をゴミ箱に投げ捨てた。色褪せた原型を留めないゴミみたいな花を、いつまでも持っておく方がおかしい。なのに、底の方でしな垂れる汚い花が菜乃花に似ていて、これを捨てたらまた執拗に顔が浮かんできそうで、深くため息を吐いてゴミ箱に手を伸ばした。

拾ったそれを大人しく本に挟んで戻す。その本を本棚へ戻す。何も変わらず元通り。唯一変わったのは埃が払われた、ということくらい。

「………飯でも作るか」