ただ、一面の青。


「嘘に決まってる!!」

まだ何か喚いている女を無視して通り過ぎれば「サク、嘘つきじゃん」と横から瀬戸の忍び笑い。


「うっせー」

「あー、本当植草さんかわいそ」

「だから、菜乃花の事は微塵も気にするな」

瀬戸と軽く小競り合いながら教室に戻ると、菜乃花は既に席に座っていた。
ぽつんと1人で。誰とも話さず、俯いて。


クラスメイトが菜乃花に意識を向けている事は空気感で伝わってくるのに、誰1人話しかけない。周りから孤立している姿は初めて会った時を連想させた。

別にあんな姿を見たいわけじゃない。哀れな姿が嬉しいわけじゃない。

でも、昔と変わらず孤独な菜乃花に少し安堵してしまうのは、瀬戸が言うように俺も病んでいるのだろう。


「サクが変な噂ばら撒くから、植草さん1人じゃん」

かわいそ、と菜乃花を見る瀬戸の視界を遮るように「噂広めたのはどうせユナだろ」と立ち塞がった。


菜乃花は俺の事だけ考えてればいい。
どうやったら俺から許されるのかずっと思い悩めばいい。


菜乃花と出会ってもう何年も経った。一緒に居た期間なんて短く、大した思い出もない。むしろ地獄のような日々だった。

それなのにずっと、毎日、習慣のように、寝る前に思い出すのは菜乃花の事。悪夢のように辛い時間。


菜乃花も苦しめばいい。

俺が何年もお前を思って苦しんできたのと同じように。ずっと、俺のことを考えて苦しめばいい。


ふいに菜乃花に視線を向けたのに、その瞳は俺の事も映さず俯いたまま。それにさえ苛立つのは自分勝手が過ぎるだろうか。