流石に化粧室まで逃げ込めば音が幾分和らいだ。
「…疲れたぁ」
何もしていないのにこの疲労感。
何度かため息をついて鏡を見れば、蒼白な顔が瞬きをした。
冷水で手を洗う。石鹸を付け丁寧に汚れを落とし水で流す。
ティッシュで拭いて、それでも気が済まなくて、もう一度水で手を濡らした。
ゴシゴシと強く擦る。
洗っても洗っても汚れが落ちない。
繰り返し洗って、やっと納得できて外へ出る。
悴む指先を摩りながら温めていたら、また大きな音が響いて耳が痛んだけど、そんな事は彼の出現で瞬時に忘れてしまった。
「…青くん」
ふらりと消えてしまった彼が、化粧室の前の壁に寄りかかってスマホをいじっている。
節目がちな顔は確かに美しく、一瞬見惚れてしまう。
「植草さん、今日何で来たの?」
その目がようやく私を向く。
ヘーゼルみたいな薄い茶色の目。また見つけた、昔の青くんとの共通点。
「やっとホテル行く決心でもついた?」
「あの…それは、条例違反というか…未成年が、その…」
下手な言い訳を青くんはプハッと吐き出して笑って「守ってる奴なんていねーよ」と私に近づいた。
「お前、俺のファンなんじゃないの?」
「いえ…あの、それも誤解と言うか…」
「ファンならヤれるだけで嬉しくねーの?」
「わ、私は、ファンと言うより…その…」
不明瞭に口籠もり俯いた私の顔を、青くんが指先でぐっと持ち上げる。
そして、その美しい唇からは冷たい声。
「なぁ…お前、ホントによく俺の前に顔出せたよな」
