───…そして…。
あっという間に卒業式当日がやって来た。
もしも今日、出席しなかったらあたしは家でモヤモヤしていただろう。
キュッと卒業式許可証を握り締め、大事に大事に鞄にしまう。
「──…いってきます」
“彩”
玄関を出て、ここでいつも待っていてくれたぶんちゃんを思い出した。
……ぶんちゃん……。
二人で初めて自転車二人乗りして学校行ったこと、覚えてる?
あたしはね人生初めての体験だったんだよ。
風が運ぶあなたの香水の匂いが忘れられない。
あなたの背中の広さも、
温かさもまだ鮮明に覚えてるよ。
──…寒い冬。
マフラーをぐるぐるに巻いて、笑って温かいミルクティー買ってくれたっけ。
ポケットに入れた手を絡ませたね。
カイロも渡してくれたね。
カイロも温かかったけど。
あたしには繋いだ手の温もりが何より一番温かかったよ。
ねぇ───……
一緒に通った道に、
まだこんなにもたくさんの思い出が溢れている。
忘れない。
忘れたくない。
一つずつ、思い出の欠片を拾いながら。
一人、あなたの元へ向かった。



