────ブォォォッ…。
ドライヤーの風に乗って、シャンプーの香りが鼻をくすぐる。
「…彩、髪綺麗だな。」
「…そうかな…?」
胸まで伸びたロングの髪。
さらりと指を通すぶんちゃんにそう言われ、振り向いた。
「春に初めて会った時はさ、肩くらいまでだったよな。」
「…覚えててくれたんだ?」
「…うん、覚えてるよ。
…ドライヤー貸して。
俺乾かしてあげる。」
「ありがと…」
──……やばい…。
また──…
泣きそう…。
ただ髪を乾かしてくれる。
それだけなのに。
今の弱り果てた心には、
ほんの少しの優しさでも強力に沁みてしまう。
「───…」
ぐっと涙をこらえて俯いた。
目に、胸まで伸びた髪が映る。
…そういえばそうだな…
春にバッサリ切ったんだっけ。
あの時はとにかく気分転換したくてたまらなかった。
中学までの自分にサヨナラしたかった。
───…亮にも。
昔の自分も、恋も全部捨てたかった。
新しい恋に期待したかった。
───…そこで…
ぶんちゃんに出逢った。
色んな事があったけど。
髪と一緒に、あなたへの思いも次第に募っていった気がする。
……今もそう。
この想いは、果てなく募るばかり。



