「……どないした…?」



頭上から降ってくる朝岡さんの声が、どれほど優しかったか。


それだけで、見える景色は潤いを増していく。




「……なん…にも…ない…」




誰にも見られたくなかった。

こんな惨めな姿を。


だから、少しでも強がっていた。

…強がっていたかった。



……でも。


あたしの表情と、返した返事は全く正反対で。



それを見た朝岡さんは、眉間に皺を寄せて首を傾げた。






「──…泣いてるのに?」



「…………」





涙は、何より真実を表す。

朝岡さんの真っ直ぐな瞳は、それこそ真実を映す鏡のようで──…。

耐えきれず、顔を逸らした。





すると───。



「吾郎、ちょっと先行っといてくれへん?」


「えっ?

純、ちょっ……」


「後でまた合流するから。」



朝岡さんが友達にそう告げると、あたしの手を取って歩き出した。




「朝岡さん…っ!

いいよ、あたしの事は放っといて友達と……」




「──放っとけるか」



「……………っ」





前を向いたまま。


静かに朝岡さんはそう言い放った。