あの子の成績表

余計なことを行ってしまったという雰囲気を正樹は見逃しませんでした。
「それって、なにか理由があったんですか? 近所の人と喧嘩してたとか?」
「いえ、そういんじゃなくて……」

しどろもどろになって田んぼへ視線を向ける女性。
そしてその視線はまた私達へ戻ってきました。
「君たち○○小学校の子たちよね?」

「はい、そうです」
このとき私と正樹の返事がかぶりました。
女性はふぅーと深く息を炊き出すと、なにか覚悟を決めたような真剣な顔つきになりました。

「日吉さんところの息子さんがね、ある日突然いなくなったの。それが原因でご夫婦は引っ越したのよ。息子さんの思い出ある場所から遠ざかって前を向こうとしたんだと思うの。近所に挨拶がなかったのは、息子さんのことを言われるのが嫌だったからじゃないかしら」

「でも、ここで待っていないと息子さんが戻ってきたときに気が付きませんよね?」
そう聞くと、女性は目を大きく見開いて黙り込んでしまいました。
それはまるで日吉大輔くんはもう戻ってこないと、知っているような態度でした。

「とにかく、そういうことだから」
女性は早口にそう言うと田んぼの中に入っていってしまって、私達が声をかけても返事をしてくれませんでした。