寝ても覚めても愛してる


「全員いるか?出席取るぞー」

担任の長内先生が、そう言いながら出席簿を開くのとわたしが教室に入るのとが同時だった。


「遅れてすみません!!」


「遅いぞっ、渡会!」

すぐさま先生の怒声が飛んできて、耳がキーンと痛んだ。

「はぁはぁ……すみません……」

わたしは、よろよろとした足取りで窓際へと向かった。

そして、椅子を引いて1番後ろにある自分の席に座った。

「相川」

「はい!」

「伊藤」

「はぁーい」

先生が出席番号順にみんなの名前を呼んでいく。

「大野」

「はい」

右手をスッと高く挙げて、彼女が返事をすると……

「ゆづかちゃん、今日もビジュ良すぎ……」

「髪、何であんなサラサラなの?」

「まじで目の保養だわー」

女の子たちがひそひそ話し出した。


大野ゆづかちゃん。
クラス1……いや学校1の美少女と言われているとっても可愛い女の子。

容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能。

それでいて、誰に対しても分け隔てなく優しく接してくれるから女の子たちの憧れの的なんだ。

当然、男の子からもすごくモテていて「ゆづかちゃんに告白した」とか「振られた」なんて話は毎日のように耳にする。

あれ?そういえば、ゆづかちゃんが告白をオッケーしたっていう話は一度も聞いたことないかも……?

なんて考えていたら。

「……渡会。渡会そら!」

いつの間にかわたしの番が来ていた。

「は、はいっ!」

慌てて返事するとに、先生は呆れたように大きなため息をついた。

「遅刻といい、今の点呼といい……。渡会、気が緩んでるぞ」

「はい、すみません……」

言い方はキツイけど、言っている内容は正論だ。

今日はもうこれ以上、失敗を積み重ねないようにしなくちゃ……!

わたしがそう心に誓ったとき。

ーバンっ!

「今日からこのクラスに新たな仲間が加わるぞ!喜べ、お前ら!」

先生が教卓を両手で力強く叩いて、声を張り上げた。


「いぇーい!」
「やったー!」
「ひゅひゅ~!」

クラスメイトたちは拍手やバンザイで思い思いに喜びを表現している。

それとは反対にわたしは何だか胸がざわざわしてきた。

だって、このクラスに転校生が来るということはわたしが朱音ちゃんの代わりに取材をしないといけないわけで。

その取材っていうのも、彼の周りに色々聞いて回るだけじゃ、きっと信憑性に欠けた内容になってしまうし。

となると、本人へのインタビューが1番手っ取り早いだろうし……



うわーん!


無理だ!超絶人見知りのわたしにそんなことできるわけないよ!

あぁ、どうして「協力できることがあったら、言ってね」なんて朱音ちゃんに言っちゃったんだろう……

この仕事、わたしには荷が重すぎるよーー!

強い後悔の念に駆られていると、


「はい」

凛とした声とともに、1人の男の子が教室に入ってきた。


「え、かっこよ……」

誰かが小さく呟いたかと思えば、

「あれ、ヤバくない……?」
「噂、本当だったんだ」
「顔、ちっちゃ……」

他の女の子たちも口々に言い出した。
それもそのはず。転校生は、噂に違わぬ超絶イケメンだったんだから。

長いまつ毛に覆われた切れ長の瞳。スッと通った鼻筋に、形の良い薄い唇。
緩くパーマのかかった茶髪は、窓から差し込んだ陽の光でキラキラ輝いている。

「自己紹介を」

先生に促されて、彼はチョークを手に取った。

ーコツコツ。

チョークの音、眠くなるなぁ……。

視界がぼやけて、まぶたがゆっくりと落ちてくる。


……


……



やばいっ、寝ちゃう……!

わたしはシャツの袖で目をゴシゴシ擦って、黒板に目を向けた。


そして、そこに書かれた名前を見て、わたしは目を見張った。

「塩谷っ…⁉」

 まるでわたしの気持ちを代弁するみたいに、誰かが声を上げた。

 すると、教室内にもざわめきが広がった。

「塩谷ってあの?」
「あんなにかっこよかったっけ……?」

 
「塩谷唯斗です。昔、東小に通っていて5年で転校したんですけど、
 親の仕事の都合でまたこっちに戻ってきました。
 これからよろしくお願いします。」


「噓……でしょ」