寝ても覚めても愛してる

東中学校は、東京西部の住宅街にひっそりと佇む、なんの変哲もない公立中学校。
わたしは、ここに通い始めてもうすぐ5カ月の
1年生でクラスはA組なんだ。

「そらちゃん!そらちゃん!」

廊下を歩いていると、後ろから誰かに肩を叩かれた。
元気な声に振り返ると、ポニーテールの小柄な女の子がわたしを見上げるように立っていた。


「おはよ、朱音ちゃん」

彼女は時任朱音ちゃん。
小学校低学年の頃から、ずーっと一緒のわたしの大親友。

……今はわたしがA組、朱音ちゃんがC組とクラスが別々になっちゃったんだけどね。

「うん、おはよっ!今日もがんばろうねっ!」

いつもニコニコ明るい朱音ちゃんだけど、今日はいつにも増して笑顔……というか
口角が緩みきっている気がする。

「どうしたの?」

首をかしげると、朱音ちゃんはぱぁっと目を輝かせた。

「とっておきのネタを見つけたんだよ!」
「ネタ?」


何の話だろう……?

「ほら、学校新聞の」

黙り込むわたしに朱音ちゃんがすかさず言った。

「ああっ、載せれるネタがないって言ってたもんね」

朱音ちゃんの所属する新聞部は、「東新報」なるものを毎週金曜日に発行しているの。
朱音ちゃんはその、「東新報」の来週号で記事を一つ書かないといけなくなったのだとか……

記事のテーマは学校に関することならなんでもアリらしいんだけど……
「書きたいことが浮かばない!」って何日か前から相談を受けてたんだよね。

「ずばり、転校生だよ!」


朱音ちゃんの声で、ハッと我に返る。

そうだった、いまは朱音ちゃんの話を聞いているところだったね。

「……転校生?」

「そ、今日あたしらの学年に転校生が来るんだって」

「へぇ~、そうなんだ」

そんなこと、全然知らなかったなぁ。
先生が誰かに教えたのかな?

なんてぼんやりと考えていたら。

「どう?記事のテーマにピッタリだと思わない?」

朱音ちゃんが、わたしの顔を至近距離で覗きこんでいた。

「う、うん。いいと思う!」

思わず、しどろもどろになってしまった。
朱音ちゃんって、目が大きくてまつ毛も長いから迫力がすごいんだよね。

「でしょ?しかも、噂ではその転校生、超ッ絶イケメンらしくて。イケメン転校生ってさ、色々と謎がありそうじゃない?
これは良い記事が書けそう!」

早口でまくしたてる朱音ちゃん。

眠っていた記者魂に火がついたのかな。

そんな様子を見ていたら、なんだかわたしまで嬉しくなってきちゃった。

「頑張ってね、朱音ちゃん。協力できることがあったら、言ってね」

「ありがとっ、そらちゃん。よーし、今日から頑張るぞ!」

朱音ちゃんが明るくガッツポーズをしたそのとき。

ーキーンコーンカーンコーン。

ホームルームの開始を知らせるチャイムが鳴った。

「ヤバッ!またお昼に話そっか」
「そうだね」
「あっ、もしさ」

何かを思いついたように、朱音ちゃんがポンと手を叩いた。

「もし、転校生がそらちゃんのクラスだったら、あたしの代わりに取材してくれない?」
「うん、いいよ」
「ほんと?ありがと~!じゃ、またお昼に」
「うん、またね!」

そう言葉を交わすと、わたしたちはそれぞれの教室に向かって一目散に駆け出した。