「さてっ、今日はみんなに将来の夢を発表してもらいます」

 担任の小林先生はぱちん、と両手を合わせて明るく言った。

「今から配る真っ白のプリントに、自分の夢を大きく書いてね」
「「「はぁーい」」」

 みんなが元気よく返事をすると、先生は満足げに微笑んで
 プリントを廊下側の列に配り始めた。

 将来の夢……かぁ。
 そんなこと、今まで考えたこともなかったよ。
 うーん、と唸っていると、

「そらちゃん、どーしたの?」

 無邪気な声が聞こえてきた。

 声のした方に顔を向けると、隣の席の塩谷唯斗くんがきょとんと首をかしげていた。

「わたし、まだ夢とかなくて……。し、塩谷くんは?」

 男の子としゃべることにはまだ慣れなくて、思わず声がうわずってしまった。

「おれはあるよ」
「へぇ、すごいねっ。どんな夢なの?」
「しりたい?」
「うんっ」

 首を縦に振ると、塩谷くんは顔をぐっと近づけてきた。

「え、えっ……?」

 あまりにも唐突な行動に、口をぽかんと開けてフリーズするわたし。

 大きく見開かれたその目は、綺麗なエメラルド色で見ているだけで吸い込まれそう……。

「そらちゃん」



耳元で名前を呼ばれて我に返る。


「おれとけっこんしてください」



 ……え、いま 結婚って言った?


 結婚っていうと、永遠の愛を誓った人どうしが一生いっしょに暮らすことだよね。 


 わたしと、塩谷くんが……?


 結婚?

「えええええええええ!!!」


 ーピピピピ!! ピピピピ!!

 ものすごい音量で目覚まし時計が鳴って一瞬で目が覚めた。

「なんだ、夢か……」


 頭上に手を伸ばし、目覚ましを止めると、今度はドッドッドッと、とてつもない速さで鳴る左胸に意識が集中してしまった。


 この尋常じゃない鼓動の速さは、うるさい目覚ましにビックリしてしまったから……?

 
 それとも「あの夢」を見たから……?
 
 
 出来れば、前者であってほしいなぁ。


 なんて思いながらわたしは寝室を出た。