家柄が良ければ、もっと美しければ、彼の気持ちを素直に受け取れたかもしれない。
けれど、何もない自分ではそうすることは出来ない。
だからまだ引き返せる内に、心が完全に奪われてしまう前に、終わりにしたかった。
「…分かった。もう連絡はしない」
安心と同時に、どうしようも無い寂しさが胸の中に広がる。
自分勝手すぎる自覚はあるが、どう考えても自分では界斗に相応しくない。
こんな事になるくらいなら、昨日どうやってでも逃げれば良かった。つくづく最低な女だ。
「けどその前に、一度デートしてくれないか」
「…え?」
唐突な台詞に呆ける栞に近づき、界斗は一言だけ言った。
「それで最後にする」
惚れた弱みとはどうしてこうも抗えないものなのか。
最後と言った界斗の瞳に微かに寂しさの感情を見てしまえば、栞にはもうどうすることもできなかった。



