「だ、だって知らなかったし…誘い方もすごくスマートだったし…」
「そうか、ありがとう」
「褒めてない!一体どうしてくれるんですか…!」
ここが高級レストランでなければ大声で奇声を上げているところだ。
なけなしの理性でなんとか正気を保っているだけで、もう頭の中はずっとパニック状態だ。
栞と会うまで恋愛経験が無かった。
それならばここまで自分に執着するのもなんとか頷ける。
彼にとってこれは初恋のようなものなのだろう。
「あの…犬に噛まれたと思って見逃してはもらえませんか」
「ほんとつくづく酷い女だな」
「わ、私には荷が重すぎるんですよ…!」
今は界斗や自分の気持ちを抜きにして、ますます本当の事を打ち明けるわけにはいかなくなった。
金持ちのお坊ちゃんの、女を知らないウブな心を弄んだとなれば…どうなるかなんて考えたくもない。
それこそ彼は良家に生まれた育ちの良い女性がパートナーに決められていたっておかしくないような立場なのだ。
世間知らずのセレブの一時の気まぐれだと思えたからこそ、まだ会えていた。
そんな男の責任を取るなんて、たかだか一般家庭で育った庶民の女にそんな大それた役目が担えるはずがない。
いや責任を取るのは自分なのか?と思わなくもないが、それは今はどうでも良い。
それにこれが初恋というならば、これから自分より美人で素敵な女は山ほどいるのだからその女性にいずれ心が奪われることがあるはずだ。



