ハロウィンの悪魔





ダラダラと冷や汗の流れる栞に対し、あまり酒に強くないのか界斗はあどけない口調で言う。


「昼間…朝比奈が髪を掻き上げた時に顔が見えて、その横顔がすげえ似てたんだ」


あの時か、とハッとする。
確かにあの一瞬気が緩んでしまい、手元の文字が見えにくくて前髪を少し払った記憶はある。

界斗の責任感に同情はするが、これで余計に名乗りを上げるわけにはいかなくなった。


「そんな訳ないじゃないですか。…完全な人違いですよ」


会社であれだけ堅物を演じておきながら裏ではふしだらに男を誘っていたと知られれば、根がお坊ちゃんな界斗が何を言い出すか分からない。

どんな噂にも尾ひれがつくのは免れない。こういった下世話な話なら特に。

そんな噂が下手に広がって会社…もとい彼の父親の耳に入ろうとものなら最悪クビ、もしくは僻地へ左遷、それを運良く免れても居た堪れなさはこの上ない。


そんな状態では仕事にも影響を及ぼしかねない。


悪い想像ばかりが頭に浮かび、背中にうす寒いものを感じながらなんとしてもこの事は隠し通そうと決意を固めた。