別れた警視正パパに見つかって情熱愛に捕まりました

 視線を落とすとカサカサに荒れた指先。花屋もバイトの清掃も水仕事だ。いくらケアしても追い付かないのだ。

(うん、そうだ。鮫島さんがいつも声を掛けてくれるのは、たまたま最初にちゃんと接客したのが私だったから)

 花以外の会話といえば、今日は暑いとか、雨が降りそうだとか当たり障りの無いことだけだ。
 あの人はお客様だ。もしかしたら最初の接客が気に入ってくれたのかもしれない。それだけでもありがたいではないか。

(そもそも、彼女がいるにきまってる……っていうか結婚してるかもしれないし)

 そんなことを考えながらバケツを持ち上げようと力をいれたのだが、思ったより水がたくさん入っていて片手が縁から外れてしまう。

「あっ……!」

 横に倒れたバケツから水が勢いよく流れ出て、乾いた歩道のアスファルトにみるみる吸い込まれていく。

(わ……やっちゃった。店の前に水をぶちまけちゃうなんて)
 余計なことを考えているからだと反省しつつ、倒れたバケツを戻していると背中の方から声がした。

「なぁ、水かかったんだけど」
「えっ」