別れた警視正パパに見つかって情熱愛に捕まりました

 鮫島に笑いかけられると仕事中だというのに勝手に胸が高鳴ってしまう。
 そう、いつの間に佳純は彼に淡い憧れを抱くようになっていた。

「佳純ちゃん、かわいいから気に入られたのよ。その内彼から連絡先渡されたりして」

「も、もう、そんなのあり得ないですから。あっ私、外の商品チェックしてきます!」

 佳純はこれ以上頬が熱くならないよう、わざとらしく話を断ち切り店の外に出た。並べてあるサービス品の花がだいぶ減っていたので、一旦水替えをしてから新しいものを入れることにする。

 バケツに手をかけ顔を上げると、大きな窓ガラスに紺色のエプロンをした自分が映っていた。

(……こんな、ぱっとしない女、あんなかっこいい人が相手にするわけないよね)

 店長は気を使ってかわいいなんて言ってくれたが、体つきも顔も十人並み。美容院に行く頻度が少なくてすむからという理由で伸ばしている髪は鎖骨下くらいまであり、仕事中は後ろでひとつにまとめている。

 大学に行かず十八歳の時から昼夜問わず働いてきたから、同年代の女性のようにファッションや恋愛を楽しむ余裕はなくいまひとつ垢ぬけない。もちろん彼氏ができた経験もない。