別れた警視正パパに見つかって情熱愛に捕まりました

 ジロジロ見て失礼だったと焦るが、彼は気を悪くする様子もなく「いえ」と一度頭を横に振ると再びショーケースを見て言った。

『これは、どうですか』

 指さしたのは淡いピンクのスイートピー。蝶のようにひらひらとした花びらをもち、バラやラナンキュラスなどに比べたら派手さはないけれどふんわりとした温かみのある花だ。

 学名は“ラチルス オドラツス”

 両親が自分たちの店名の由来にするほど愛していたスイートピーは、見ているだけで優しい気持ちになれる。佳純も一番好きな花。
 赤いバラが似合いそうな落ち着いた大人の男性がこのかわいらしい花を選んだのが少し意外だった。
 でもとても嬉しくて佳純は声を弾ませた。

『素敵ですね! では、こちらのスイートピーをメインで作らせていただきますね』

 予算も任せると言われたので、通常の仏花の価格の範囲でフリージアなども合わせて手早く準備する。

『お客様の優しいお気持ち、きっとその方に伝わりますね』

 春らしい爽やかな花束を笑顔と共に差し出すと、彼は少し驚いたように目を瞬かせてから表情を和らげた。

『そうですね、きっと喜ぶと思います……ありがとう』