別れた警視正パパに見つかって情熱愛に捕まりました

 数日後の十六時過ぎ、客足が途絶えたので佳純はフラワーキーパーのガラスを拭いていた。
 フラワーキーパーは花を冷蔵し鮮度を保ちながらディスプレイするもので、フローリスト デ・パールでも店の奥に設置してある。ブーケづくりを終えた店長がニコニコしながら声を掛けてきた。

「ねぇねぇ佳純ちゃん、彼、今日まだ来てないわよね。そろそろいらっしゃるかしら」

「そういえば、今日は十日ですもんね」

 そういえば、なんて今思い出したように言ってしまったが、佳純はしっかり意識していた。

 この店には一年ほど前から定期的にやってくる男性客がいる。
 たまに前後することもあるが、ほぼ毎月十日に姿を見せ、買い求めるのはブーケやアレンジではなく仏花だった。

 年齢は三十前後。いつもスーツ姿でやってくる背の高い男性は俳優のように人を目に引くオーラと存在感があり、スタッフの間でちょっとした有名人になっていた。

 佳純がその彼に初めて声を掛けられたのは今から半年前の三月。

『花を見繕ってもらえませんか』