拝啓 、 人生をくれたキミへ






 全ての始まりは、俺が中学2年生の春の時だった


 それは、俺が大好きな野球をプレイしている時に起こった


美耶(みや)ー!今日も一緒に部活行こうぜ」


「おう、すぐ着替えてくるから待ってろ」


「はいはーい」


 同じ野球部に所属しているクラスメイトの高峰が、


 俺を急かすようにして更衣室に送り込む


 中に入ると、見慣れた水色髪の幼なじみがいた


「あれ、(かける)くんじゃん」


「あ、蒼葉(あおば)


 それだけで会話は終わり


 幼なじみと言っても、


 普通より少しだけ仲が良いだけで


 幼児の頃から中2の今まで一緒だなんて、


 最早腐れ縁レベルの話だと思う


「あ、そういえばさー」


 蒼葉は、サッカー部のユニフォームが入っていた


 袋を片手にもち、俺の方を向いてくる


「昨日、結城ちゃんから告白されてたよね。付き合うの?」


「真面目な話だと思った俺がバカだったわ」


 蒼葉の質問に、少し呆れて笑いながら返した


「ねぇ言い方酷くない?」


「んで、結局?」


「断った」


 蒼葉が言っていた「結城ちゃん」とは、


 “結城穂波”のことで、


 うちの学年では美女だと有名なのだ


 ちょうど昨日、その結城さんに告白されたが、


 話したこともなければ興味もないので、


 俺なりに丁寧に断った……つもりだ


「えー、結城ちゃんかわいそー」


「お前絶対思ってないだろ」


 少し笑いを含んだような言い方で言われて、


 クスッと笑ってしまった。結城さんには失礼だけれど


「まぁね〜。んじゃ、部活行ってくる」


「いってらー」


 蒼葉が更衣室から出ていくのを見て、


 野球部のユニフォームに着替え終わった俺も


 蒼葉の後に続いて更衣室を出た





「あれ、美耶!遅かったな〜」


 からかい口調で言われ、少し呆れた


「まだ待ってたのかよ……先行ったと思ってたわ」


「行く訳ねぇだろ。……俺がそんな薄情な人間に見え」


「見える」


「おいまだ言い終わってねぇって。しかも被せ気味って……ひでぇ」


 そうツッこみながらも笑っている高峰


 俺もつられて笑った





 高峰と話しながら歩いていると、


 いつの間にかグラウンドに着いていた


 高峰は、野球部のマネージャーをしている


 結城さんのことが好きらしく、


 グラウンドに着くなり、「俺、穂波ちゃんの所行くから」


 と、結城さんの居る方向へ走って向かって行った


(めんどくせぇ奴だな……)


 正直、恋愛なんてどうでもいい精神の俺は、


 片想いをして必死になっている意味も、


 好きな人にアタックする意味も


 全くもって理解ができていないのだ


 と、言うことを去年青葉に話したら、


「ちっちっち〜!翔くんは恋愛について何も分かってないね!んま、そんな翔くんにも、いつかは好きな人ができると思うよー」


 なんて、偉そうに言われたのを覚えてる





「おーい、美耶!セッティング手伝ってくれ!」


 運動部用物置の方から先輩の声が聞こえてきた


 後ろを振り返ると、両手にカラーコーンを持った


 先輩が俺に助けを求めていた


「あ、今行きまーす!!」


 先輩に聞こえるよう、大きな声で返事をし、


 カラーコーンを重そうに持つ先輩の元に走って行った