〇放課後・教室(怜那、龍崎だけ)
カーテンもしまっていて、教室は暗い。教室後方の棚に、大量の衣装を保管してある。
龍崎「着替え終わるまで、外にいるから」
怜那「……うん」
龍崎が教室を出ていく。
一人になった怜那は、メイド服を広げてみる。
怜那「(これを私が着るんだよね)」
怜那「(……私が、こんな可愛い服……)」
ごくり、と唾を飲み込む。
怜那「(今さら逃げられないし)」
怜那「(……龍崎くんも、ああ言ってくれたんだし)」
覚悟を決めた顔で着替え始める怜那。
〇放課後・教室
メイド服に着替え終わった怜那。
窓ガラスの自分を確認し、赤くなる怜那。
怜那「(……似合ってない……って、ほどじゃない、かな?)」
怜那「(でもやっぱり、私のイメージには合わない)」
溜息を吐き、教室の扉からそっと顔を出す。
怜那「……龍崎くん」
龍崎が振り向き、目が合う。
怜那を見て龍崎が目を見開く。
龍崎「……似合ってる」
怜那「(そんなわけないのに)」
怜那「ありがとう」
龍崎「お世辞とかじゃないから」
見つめ合い、無言のまま教室へ戻る。
じろじろと観察されて居心地の悪さを感じる怜那。
怜那「(恥ずかしすぎる)」
ぎゅ、とスカートの裾を握る。身長が高いため、スカートが短い。
龍崎「……似合わないって思ってる?」
怜那「……まあ」
龍崎「俺からすれば、執事服と同じくらい似合ってるけど」
緊張したような表情で咳払いをする龍崎。
龍崎「ちゃんと可愛いんだから、安心しろ」
怜那「……っ!?」
真っ赤になって顔を隠す怜那。
【可愛い?】
【そんなの、初めて言われた】
まともに龍崎の顔を見ることができない。
そんな時、廊下から話声が聞こえてくる。
怜那「(誰かきた!?)
怜那「(どうしよう!?)
【もし、メイド服を着ているのが誰かにバレちゃったら……】
がっかりされたり、馬鹿にされるシーンが頭に浮かぶ。
小刻みに震え出す怜那。
【嫌だ、嫌だ……!】
【龍崎くん以外に、見られたくない……!】
龍崎「こっち(小声)」
いきなり腕を引っ張られ、教卓の下に引きずり込まれる。
二人で隠れているため、かなり密着することになる。
龍崎「大丈夫だから(小声)」
耳元で囁く龍崎。その声にほっとする怜那だったが、あまりの至近距離に動揺してしまう。
怜那「(顔、近い)」
じろじろと龍崎の顔を観察する。
【龍崎くん、睫毛長い】
【……下睫毛も長いな。それに、口の横に小さなホクロもある】
【あ。もしかして、八重歯もある?】
龍崎「じろじろ見るな(小声)」
怜那「あっ、ごめ……(小声)」
ごめん、と言いかけ、龍崎の顔が真っ赤になっていることに気づく。
怜那「(龍崎くん、照れてるんだ……)
話し声が遠ざかっていく。
先に龍崎が教卓の下から出て、廊下を確認する。
龍崎「いいぞ」
怜那「うん」
教卓の下から怜那も出る。
怜那「(冷静に考えたら、龍崎くんは隠れる必要なかったような……?)」
龍崎「危ないし、そろそろ着替えるか」
怜那「あ、うん」
龍崎「じゃあ」
龍崎が教室から出ようとする。
その寸前、一瞬だけ振り向く。
龍崎「マジで似合ってるから」
念押しするように言って、教室を出る龍崎。
〇放課後・教室(テスト終了日のため、放課後だが昼)
【やっとテストが終わった】
【文化祭準備もあったから、本当に忙しかったな】
怜那「(龍崎くん、ちゃんとできたかな)」
荷物を持った龍崎が怜那の席にやってくる。
龍崎「帰るぞ」
【いつの間にか、こうして二人で帰るのが当たり前になってる】
怜那「うん。テスト、どうだった?」
龍崎「赤点はないと思う。……レベル低い感想で悪いけど」
怜那「そんなことないって」
怜那「(よかった)」
怜那「(ちょっとは、役に立てたってことだよね)」
荷物をまとめ、二人で教室を出る。
〇帰り道
龍崎「今日、時間ある?」
怜那「あるけど……」
龍崎「勉強教えてくれたお礼に、なんか奢る」
怜那「えっ、いいよそんなの」
龍崎「よくない。っていうか、なにもしないと俺がすっきりしないから」
怜那「……じゃあ、ありがとう」
怜那「(え? ちょっと待って)」
怜那「(それって……放課後デート、ってこと?)」
慌てる怜那。スマホで近隣の店を検索する龍崎。
龍崎「こことかどう? ちょうど腹減ったし」
龍崎が見せてくれた画面には、近くのハンバーガー店(※大手チェーン店ではなく、少しお洒落な感じの店)が映っている。
怜那「美味しそう」
龍崎「じゃあ、行くか。平日だし、そんなに混んでないだろ」
〇ハンバーガー店
平日昼間のため、店内に客はまばら。
店員「いらっしゃいませ」
注文するため、レジへ向かう。
龍崎「どれにする?」
怜那「えーっと……」
メニュー数がかなり多く、悩む怜那。
怜那「(こういう時って、一番安いのを頼むべき?)」
怜那「(っていうか、セットじゃなくて単品にするものなの?)」
悩み過ぎて、なかなか決められない。
龍崎「俺はこれにするけど」
龍崎が指差したのは、『肉盛り! ボリュームマックス、ニンニクバーガーセット』というかなりのボリュームのもの。
怜那「じゃ、じゃあ、同じやつで!」
あまり考えず、とっさにそう言う怜那。
龍崎「じゃあ、これ2つで」
スムーズに注文を終わらせる龍崎。
怜那「(あれ?)」
怜那「(もしかして、めちゃくちゃボリュームのあるやつ頼んじゃった……?)」
龍崎「鈴原って、結構大食いなんだな」
怜那「え?」
龍崎「ここ、何回か友達ときたことあるけど、俺以外に食べれたやつ見たことないわ」
怜那「……あ、う、うん。私、意外と食べるんだよね……」
怜那「(私、やらかした!?)」
怜那「(でも、今さらどうにもならないし……!)」
〇ハンバーガー店・四人用の席に、向かい合って着席中
店員「お待たせしました」
トレイにのせられた、大ボリュームのハンバーガーセットが運ばれてくる。
怜那「(美味しそう……! でも、大きすぎ!)」
龍崎「これ、マジで美味いから。おすすめ」
怜那「うん、すごく美味しそう」
怜那「(残すなんて、絶対だめ)」
怜那「(なんとしてでも、完食する!)」
覚悟を決めた顔で、勢いよくバーガーにかぶりつく怜那。
怜那「美味しい……っ!」
怜那「(これなら余裕かも!)」
瞳を輝かせ、バーガーを食べすすめる怜那。
そんな怜那を龍崎は優しそうな目で見ている。
〇食後(怜那は完食しているが、龍崎はまだ食事中)
怜那「美味しかった……!」
龍崎「食べるの早ないな、鈴原」
怜那「(あ……!)」
怜那「(っていうか、さらっと完食できちゃった)」
【こんなの、女の子らしくないよね】
【ただでさえこんな見た目なのに】
一瞬落ち込む怜那。
しかし、龍崎は楽しそうにしている。
龍崎「こんなに食べられるなら、他にも行きたい店あるんだけど」
スマホを取り出し、いろんな店を見せてくれる。
どれもかなりのボリューム。
怜那「わ、美味しそう……!」
龍崎「だろ? よかったら、一緒に行こうぜ」
怜那「行きたい」
怜那「(あ、これってもしかして、デート……?)」
怜那「(いやいや、一緒にご飯を食べに行くだけだし)」
怜那「(でも、それってデートなんじゃないの!?)」
脳内であれこれと考えるが、あまり顔には出ていない。
龍崎「まだいけるなら、この後デザートでも食いに行かねえ? でかいアイスの店があるんだけど」
龍崎が楽しそうに笑っている。
怜那「(龍崎くんも、楽しんでくれてるんだ)」
怜那「もちろん!」
〇文化祭当日・朝
開店に備え、既に全員が着替えを終えている。怜那も執事姿。
チャイムが鳴り、文化祭が始まる。
それと同時に、客が入ってくる。
メイド・執事「お帰りなさいませ!」
怜那を見てきゃあきゃあと騒ぐ女性客。
怜那「(すごい数の人……!)」
怜那「(頑張らないと)」
他校の制服を着た集団が入ってくる。男子二人、女子二人。みんなお洒落で、派手な見た目をしている。
他校の女子1「翼のクラスってここだよね?」
怜那「(翼……って、龍崎くん!?)」
他校の男子「あいつは裏方らしいけどな」
他校の女子2「えー、もったいない」
他校の女子1「まあでも、愛想悪いもんね」
龍崎とかなり親しげな様子にもやっとする。
ちょうどその時、奥から龍崎が出てくる。
他校の女子1「翼!」
他校の女子が龍崎に駆け寄り、龍崎も笑顔。
ずきっ、と胸が痛む。
怜那「(……その子たちにもそんな顔、するんだ)」
怜那「(そりゃあそうだよね。前の学校の子だろうし、仲いいんだろうし)」
怜那「(でも……)」
【私って別に、龍崎くんの特別じゃないんだ】
カーテンもしまっていて、教室は暗い。教室後方の棚に、大量の衣装を保管してある。
龍崎「着替え終わるまで、外にいるから」
怜那「……うん」
龍崎が教室を出ていく。
一人になった怜那は、メイド服を広げてみる。
怜那「(これを私が着るんだよね)」
怜那「(……私が、こんな可愛い服……)」
ごくり、と唾を飲み込む。
怜那「(今さら逃げられないし)」
怜那「(……龍崎くんも、ああ言ってくれたんだし)」
覚悟を決めた顔で着替え始める怜那。
〇放課後・教室
メイド服に着替え終わった怜那。
窓ガラスの自分を確認し、赤くなる怜那。
怜那「(……似合ってない……って、ほどじゃない、かな?)」
怜那「(でもやっぱり、私のイメージには合わない)」
溜息を吐き、教室の扉からそっと顔を出す。
怜那「……龍崎くん」
龍崎が振り向き、目が合う。
怜那を見て龍崎が目を見開く。
龍崎「……似合ってる」
怜那「(そんなわけないのに)」
怜那「ありがとう」
龍崎「お世辞とかじゃないから」
見つめ合い、無言のまま教室へ戻る。
じろじろと観察されて居心地の悪さを感じる怜那。
怜那「(恥ずかしすぎる)」
ぎゅ、とスカートの裾を握る。身長が高いため、スカートが短い。
龍崎「……似合わないって思ってる?」
怜那「……まあ」
龍崎「俺からすれば、執事服と同じくらい似合ってるけど」
緊張したような表情で咳払いをする龍崎。
龍崎「ちゃんと可愛いんだから、安心しろ」
怜那「……っ!?」
真っ赤になって顔を隠す怜那。
【可愛い?】
【そんなの、初めて言われた】
まともに龍崎の顔を見ることができない。
そんな時、廊下から話声が聞こえてくる。
怜那「(誰かきた!?)
怜那「(どうしよう!?)
【もし、メイド服を着ているのが誰かにバレちゃったら……】
がっかりされたり、馬鹿にされるシーンが頭に浮かぶ。
小刻みに震え出す怜那。
【嫌だ、嫌だ……!】
【龍崎くん以外に、見られたくない……!】
龍崎「こっち(小声)」
いきなり腕を引っ張られ、教卓の下に引きずり込まれる。
二人で隠れているため、かなり密着することになる。
龍崎「大丈夫だから(小声)」
耳元で囁く龍崎。その声にほっとする怜那だったが、あまりの至近距離に動揺してしまう。
怜那「(顔、近い)」
じろじろと龍崎の顔を観察する。
【龍崎くん、睫毛長い】
【……下睫毛も長いな。それに、口の横に小さなホクロもある】
【あ。もしかして、八重歯もある?】
龍崎「じろじろ見るな(小声)」
怜那「あっ、ごめ……(小声)」
ごめん、と言いかけ、龍崎の顔が真っ赤になっていることに気づく。
怜那「(龍崎くん、照れてるんだ……)
話し声が遠ざかっていく。
先に龍崎が教卓の下から出て、廊下を確認する。
龍崎「いいぞ」
怜那「うん」
教卓の下から怜那も出る。
怜那「(冷静に考えたら、龍崎くんは隠れる必要なかったような……?)」
龍崎「危ないし、そろそろ着替えるか」
怜那「あ、うん」
龍崎「じゃあ」
龍崎が教室から出ようとする。
その寸前、一瞬だけ振り向く。
龍崎「マジで似合ってるから」
念押しするように言って、教室を出る龍崎。
〇放課後・教室(テスト終了日のため、放課後だが昼)
【やっとテストが終わった】
【文化祭準備もあったから、本当に忙しかったな】
怜那「(龍崎くん、ちゃんとできたかな)」
荷物を持った龍崎が怜那の席にやってくる。
龍崎「帰るぞ」
【いつの間にか、こうして二人で帰るのが当たり前になってる】
怜那「うん。テスト、どうだった?」
龍崎「赤点はないと思う。……レベル低い感想で悪いけど」
怜那「そんなことないって」
怜那「(よかった)」
怜那「(ちょっとは、役に立てたってことだよね)」
荷物をまとめ、二人で教室を出る。
〇帰り道
龍崎「今日、時間ある?」
怜那「あるけど……」
龍崎「勉強教えてくれたお礼に、なんか奢る」
怜那「えっ、いいよそんなの」
龍崎「よくない。っていうか、なにもしないと俺がすっきりしないから」
怜那「……じゃあ、ありがとう」
怜那「(え? ちょっと待って)」
怜那「(それって……放課後デート、ってこと?)」
慌てる怜那。スマホで近隣の店を検索する龍崎。
龍崎「こことかどう? ちょうど腹減ったし」
龍崎が見せてくれた画面には、近くのハンバーガー店(※大手チェーン店ではなく、少しお洒落な感じの店)が映っている。
怜那「美味しそう」
龍崎「じゃあ、行くか。平日だし、そんなに混んでないだろ」
〇ハンバーガー店
平日昼間のため、店内に客はまばら。
店員「いらっしゃいませ」
注文するため、レジへ向かう。
龍崎「どれにする?」
怜那「えーっと……」
メニュー数がかなり多く、悩む怜那。
怜那「(こういう時って、一番安いのを頼むべき?)」
怜那「(っていうか、セットじゃなくて単品にするものなの?)」
悩み過ぎて、なかなか決められない。
龍崎「俺はこれにするけど」
龍崎が指差したのは、『肉盛り! ボリュームマックス、ニンニクバーガーセット』というかなりのボリュームのもの。
怜那「じゃ、じゃあ、同じやつで!」
あまり考えず、とっさにそう言う怜那。
龍崎「じゃあ、これ2つで」
スムーズに注文を終わらせる龍崎。
怜那「(あれ?)」
怜那「(もしかして、めちゃくちゃボリュームのあるやつ頼んじゃった……?)」
龍崎「鈴原って、結構大食いなんだな」
怜那「え?」
龍崎「ここ、何回か友達ときたことあるけど、俺以外に食べれたやつ見たことないわ」
怜那「……あ、う、うん。私、意外と食べるんだよね……」
怜那「(私、やらかした!?)」
怜那「(でも、今さらどうにもならないし……!)」
〇ハンバーガー店・四人用の席に、向かい合って着席中
店員「お待たせしました」
トレイにのせられた、大ボリュームのハンバーガーセットが運ばれてくる。
怜那「(美味しそう……! でも、大きすぎ!)」
龍崎「これ、マジで美味いから。おすすめ」
怜那「うん、すごく美味しそう」
怜那「(残すなんて、絶対だめ)」
怜那「(なんとしてでも、完食する!)」
覚悟を決めた顔で、勢いよくバーガーにかぶりつく怜那。
怜那「美味しい……っ!」
怜那「(これなら余裕かも!)」
瞳を輝かせ、バーガーを食べすすめる怜那。
そんな怜那を龍崎は優しそうな目で見ている。
〇食後(怜那は完食しているが、龍崎はまだ食事中)
怜那「美味しかった……!」
龍崎「食べるの早ないな、鈴原」
怜那「(あ……!)」
怜那「(っていうか、さらっと完食できちゃった)」
【こんなの、女の子らしくないよね】
【ただでさえこんな見た目なのに】
一瞬落ち込む怜那。
しかし、龍崎は楽しそうにしている。
龍崎「こんなに食べられるなら、他にも行きたい店あるんだけど」
スマホを取り出し、いろんな店を見せてくれる。
どれもかなりのボリューム。
怜那「わ、美味しそう……!」
龍崎「だろ? よかったら、一緒に行こうぜ」
怜那「行きたい」
怜那「(あ、これってもしかして、デート……?)」
怜那「(いやいや、一緒にご飯を食べに行くだけだし)」
怜那「(でも、それってデートなんじゃないの!?)」
脳内であれこれと考えるが、あまり顔には出ていない。
龍崎「まだいけるなら、この後デザートでも食いに行かねえ? でかいアイスの店があるんだけど」
龍崎が楽しそうに笑っている。
怜那「(龍崎くんも、楽しんでくれてるんだ)」
怜那「もちろん!」
〇文化祭当日・朝
開店に備え、既に全員が着替えを終えている。怜那も執事姿。
チャイムが鳴り、文化祭が始まる。
それと同時に、客が入ってくる。
メイド・執事「お帰りなさいませ!」
怜那を見てきゃあきゃあと騒ぐ女性客。
怜那「(すごい数の人……!)」
怜那「(頑張らないと)」
他校の制服を着た集団が入ってくる。男子二人、女子二人。みんなお洒落で、派手な見た目をしている。
他校の女子1「翼のクラスってここだよね?」
怜那「(翼……って、龍崎くん!?)」
他校の男子「あいつは裏方らしいけどな」
他校の女子2「えー、もったいない」
他校の女子1「まあでも、愛想悪いもんね」
龍崎とかなり親しげな様子にもやっとする。
ちょうどその時、奥から龍崎が出てくる。
他校の女子1「翼!」
他校の女子が龍崎に駆け寄り、龍崎も笑顔。
ずきっ、と胸が痛む。
怜那「(……その子たちにもそんな顔、するんだ)」
怜那「(そりゃあそうだよね。前の学校の子だろうし、仲いいんだろうし)」
怜那「(でも……)」
【私って別に、龍崎くんの特別じゃないんだ】
