龍崎くんには全部見せたい

〇朝・教室。

クラスの女子「ねえ、転入生って男子なんでしょ」
クラスの女子2「どんな人かな」

 転入生の話題でクラス中がざわざわしている中、窓際の席に一人で座り、勉強している怜那(れな)(ショートヘアで、中性的な美人。クールな印象)。
 怜那の制服はスカートではなくスラックス。クラスの女子はどちらを選んでいる子もいる。

 がらっ、と扉が開き、転入生(黒髪でイケメンだが、目つきが鋭く、ピアスも開いていて不良に見える)を連れて先生(中年男性)が入ってくる。
 騒がしかった教室が静まり返る。

先生「転入生の龍崎(りゅうざき)だ」

 先生に促され、龍崎が教卓の前に立つ。

龍崎「……龍崎(つばさ)です」

怜那「(えっ、それだけ!?)」
怜那「(私が言うのもあれだけど……愛想悪すぎない!?)」

龍崎「俺の席どこですか?」
先生「えっ、あ……奥の、あそこだけど」

 無言で自分の席へ移動し、足を組む龍崎。
 その様子を見て、クラスメートたちが怖がる。

【うちの学校は、それなりに偏差値の高い進学校だ】
【だから、不良なんていない】

怜那「(……龍崎くん、きっと浮いちゃうだろうな)」


〇昼休み・教室

クラスの女子「王子、今日こそ私と一緒にご飯食べない!?」
クラスの女子2「待ってよ、今日はうちらと食べる日でしょ!?」

 怜那の机の周りに多くの女子が集まっている。
 怜那は少し困った顔。

【王子、っていうのは私のこと】
【褒められているのは分かる。格好いいって言われて悪い気もしない】
【でも……】

クラスの女子3「だめ。今日は私の番! 昼休みは王子と喋れる貴重な機会なんだから、順番守ってよ!」

 女子たちが揉め始め、怜那は心の中で溜息を吐く。

【クールな格好いい王子様】
【それが、高校に入って私に貼られたレッテル】

怜那「(無表情でなにを考えてるか分からない、なんて言われた中学時代よりはマシだけど……)」
怜那「(もっと上手く、気持ちを顔に出せたらな……)」

 急に教室に先生が入ってくる。
 一人ぼっちの龍崎を見て困ったような顔をし、教室を見回す。

先生「誰か龍崎に学校を案内してやってくれ」

 教室にいた全員が沈黙する。

先生「学級委員の……田村(男子)はいないか。桃園(ももぞの)(女子)、どうだ?」

 びくっ、と震える桃園(小柄で可愛らしい女子生徒)。

桃園「わ、私、えっと、その……」

 可哀想、無理だよ……という声が口々に上がる。
 そんな中、龍崎は居心地が悪そうにしている。
 一瞬、怜那は龍崎と目が合うが、すぐに逸らされる。

怜那「(龍崎くん、不機嫌そうに見えるけど……今、どんな気持ちなんだろ)」

【心の中と、表情が一緒とは限らない】
【嫌というほど分かってる】

怜那「(もしかしたら、龍崎くんは……)」

 怜那が勢いよく立ち上がる。椅子が音を立てたせいで、教室中の視線が怜那に集中する。

怜那「先生。私が案内します」
先生「いいのか?」

 ほっとしたような顔になる先生。

怜那「はい」
桃園「……本当にありがとう、王子」

 桃園が涙目で頭を下げる。周りの女子も、さすが王子! 格好良すぎ! とはしゃいでいる。

怜那「気にしないで」
怜那「(私、桃園さんのために言ったわけじゃないし)」

 軽く深呼吸し、龍崎の席へ。
 みんなが見守る中、龍崎と目が合う。

怜那「学校、案内するよ」
怜那「(断られちゃったりするかな?)」

 顔には出ないが、不安な怜那。

龍崎「……ありがと」

 ぶすっとした顔のまま頷く龍崎。


〇昼休み・学校の廊下

怜那「で、こっちが移動教室。数学の時に使うよ」
龍崎「……」
怜那「(き、気まずい……)」
怜那「(なにか喋ってよ。私も全然喋れてないけど……)」

 終始無言、たまに頷くだけの龍崎。
 盛り上がらない空気のまま、学校を一通り案内する。
 昇降口で全ての案内が終了。

怜那「……こんな感じ」
龍崎「……どうも」
怜那「(余計なことしちゃったかな、私)」

 昇降口から学校内に戻ろうとする二人。
 いきなり虫が飛んでくる。

怜那「わっ……!」

 怖がって飛び上がり、猛スピードで逃げる怜那。
 虫はすぐにいなくなるが、龍崎が驚いた顔で怜那を見る。

怜那「(あ……)」

 恥ずかしくなり、俯く怜那。

龍崎「驚き過ぎだろ」

 怜那を見て龍崎が笑う。笑うと印象が変わり、柔らかく見える。

怜那「(……龍崎くんって、こんな顔で笑うんだ)」
龍崎「あ……悪い、笑ったりして」
怜那「ううん。別に……」

 気まずい沈黙が流れる。お互い、様子を窺っている。

怜那「……意外でしょ、虫が怖いとか」

 沈黙が耐えられなくなった怜那が自嘲気味に言う。

怜那「(クラスの子に見られてたら、イメージと違う、なんて言われたのかな)」
龍崎「いや、全然、意外とかはないけど」
怜那「……え?」
龍崎「意外とか思うほどお前のこと……えっと、王子、って名前じゃないよな?」
怜那「鈴原(すずはら)怜那」
龍崎「鈴原のこと、知らないし」

【意外だと思うほど知らない】
【言われてみれば、当たり前のことだ】
【だけど……】

怜那「(嬉しい)」
怜那「(龍崎くんは、見た目で私を決めつけなかった)」
龍崎「案内、ありがとな。俺の案内とか、嫌だっただろ」

 目を逸らし、気まずそうに髪を触る龍崎。

怜那「なんでそう思うの?」
龍崎「え?」
怜那「私の気持ちが分かるほど、私のこと知らないでしょ」

 龍崎が目を丸くし、その後、盛大に笑う。
 あまりの笑いっぷりに戸惑う怜那。

龍崎「そうだな、本当、鈴原の言う通りだ」

 目が合った瞬間、きゅん、と心臓が高鳴る。

怜那「(なにこれ……)
龍崎「でも、鈴原がいい奴だってことは分かった」
怜那「そ、それは……どうも」
龍崎「教室戻るか、そろそろ時間だろ」
怜那「うん」

 二人で並んで教室へ戻る。
 会話はそれほどないが、柔らかい雰囲気。


〇ホームルーム後・教室

クラスの男子「これ、龍崎に渡しといてくれ」
クラスの男子2「これも」

 怜那の机に、大量のプリントや問題集などが置かれる。

クラスの女子「ちょっと! 自分で渡しなさいよ」
クラスの女子2「王子は龍崎くんのお世話係じゃないんだから」

 怜那の前で言い争いを始める男子と女子。その声は大きく、龍崎にも聞こえている。
 龍崎は相変わらずの不機嫌そうな顔。それを見て、男女ともに怖がる。

【みんな、龍崎くんがどう思うかなんて気にもしていないんだ】
【表面しか見ずに、龍崎くんを怖がってる】

怜那「渡すの、これで全部?」
周り「えっ」
怜那「渡しておくから」
男子たち「あ、ありがとう」
便乗した女子たち「……その、よかったらこれも」

 結局、全教科分のプリントや問題集を渡される。
 怜那はそれを持って立ち上がり、龍崎の席へ。クラスメートたちは遠巻きにその様子を見守っている。

怜那「はい」
龍崎「……どうも」

 みんなに見られているため、気まずい雰囲気。

龍崎「じゃあ俺、帰るわ」
怜那「あ、うん」

 じーっと怜那を見つめる龍崎。

怜那「(なんだろ?)」
龍崎「……鈴原は?」
怜那「あっ……」
怜那「(一緒に帰ろう、ってこと!?)」

 相変わらず仏頂面だが、少し照れたように見える龍崎。

【きっと龍崎くんは、不器用なだけだ】
【私たちって、似てるのかもしれない】

怜那「私も、もう帰るよ」


〇放課後・学校から少し歩いた交差点

龍崎「じゃあ俺、こっちだから」
怜那「うん」
龍崎「……あのさ、鈴原」

 少しの間沈黙。

龍崎「これから、よろしく」

 龍崎の頬が少しだけ赤くなっている。

怜那「(……可愛い)」
怜那「(えっ!? 私、今、なんて思った……!?)」

【龍崎くんはイケメンだと思う】
【でも、目つきが鋭いし、ちょっと怖いし、可愛いってタイプじゃないはずなのに】
【なのに、私……】

龍崎「鈴原、俺の世話係なんだろ」
怜那「(クラスの子たちの話、やっぱり聞こえてたんだ)」
龍崎「じゃあな」
怜那「あっ、うん、また明日」

 手を振って別れる。龍崎の背中をじっと見つめる怜那。

怜那「(また明日、か)」
怜那「(……学校が楽しみなのなんて、初めてかも)」