「あ、待てって…リサ‼」
 俺はリサに手を伸ばす。
 でも、簡単にリサは人ごみに流されていった。
 リサ‼
 この人ごみで、はぐれたら大変なことになる。
 リサも俺に気付いて手を伸ばしてくれたが……届かなかった。
 俺も飛び込もうと思ったがそれは余計にはぐれてしまう。
 スマホで連絡できないから何もできない。
 むやみやたらに探してもきっと見つからない。リサっ……
 今、俺はどうすればいいんだ。どうすれば…
 後ろから服を少し引っ張られた。
 振り向くと、小さい男が俺の服をつかんでいる。
 何だ、こいつ。
 俺は離れるように睨みつけながら言おうと思った。
 その時、俺は違和感に気付いてしまった。
 ……ん?こいつの親はどこだ?
 周りを見渡してもそれらしき人はいない。
 もしかしてこいつ、迷子⁉
 はあ⁉こいつもかよ。
 目に涙を浮かべて俺に助けを求めているように見えた。
「はあ、お前のお母さんとお父さんは?」
 なるべく怖がらせないように、しゃがんで聞く。
「…さっきまでいたのに消えちゃった。お兄ちゃんは、探してくれる?」
 消えたって、今の子供は物騒だな。消えたってことは、いつの間にかいなくなってたってことか。
 それに、今起きたことだ。すぐにこいつの親を見つけてリサを探さないと…
「ねえ、足疲れた。」
 そういって手を広げてくる。
 いわゆる、抱っこって言うことか。
 まじか。こいつを抱えて親探しかよ。
「はいはい。ほら、こっちにこい。」
 そういって抱えるとすごく軽い。
 さっきから思っていたけど、俺、誘拐していると思われていてもおかしくないな。
 迷子センターに連れて行ってもいいが、あいにく、迷子センターはお休みらしい。
 ったく、役立たず。
 すると、誰かから電話がかかってきた―――リサから‼
 すぐ通話に出る。
「もしもし、颯さん!今、どこにいますか…?」
 リサの声がした。焦った声だ。
「リサっ、俺が行くから…」
 ぷつっ。
 くそっ、リサに届いたか?
「ねえ、お兄ちゃん。あれほしい」
 勇気が指をさしていたのは、射的の商品だった。
「ごめん、ちょっと我慢してくれ。」
 俺はもう一度リサに電話を試みた。だが、つながるはずもなく。
「いやあだー。絶対あれをもらうまで帰らないー。やーだー。」
 こどもが駄々をこね始めた。
 周りの人たちが俺をにらみつけながら「こどもをなかせているわよ」「うわ、悪質…」なんて噂し始めた。
 さすがに居心地が悪すぎる‼
「わかったって、とりゃあいいんだろ」
 俺がそう言うとすぐにおとなしくなってくれた。
 ったく、面倒だな。
「射的一回お願いします。」
 一回で5発撃てるみたいだ。
 係の人はお手本を見せてくれた。頑張ればとれそうだけど、完全に取れないようにしてある。
 商品の後ろに支えがあることがバレバレなんだよ。
 構えて、狙いを定めて…いけっ!
 俺が放った球は見事、お目当てにあたったが、取れなかった。
 久しぶりにしたけど…楽しいかも。
「おにーちゃん、たのしい?」
「ばーか、お兄ちゃんは戦ってるの。」
「へー。がんばってー。」
 俺は早く終わらせたいから、真剣にする。
 狙いを定めて…ここだっ‼
 また俺の球は商品にあたった。そして、くるりと回転して…落ちた。
「うわあー。おにいちゃん、取れたの⁉」
 興奮して目をキラキラさせているこいつにあげる。
 可愛いな。
 そういえば、リサもかわいかったな。メガネでまともに顔が見えないけど。
 残りの球が後三発あったからリサにプレゼントとして狙う。

「おにーちゃん、楽しい?」
「うん。」
「ふーん」
 俺はこいつの世話をしながらリサに電話できるように引き続き試みている。
「え、ゆうき⁉」
「うわあ、おかあさーん。」
 俺が面倒を見ていた子供とそのおかあさんらしい人が抱き合っている。
 無事、見つかってよかったな。
 俺は、その場を後にした。
「おにーちゃん。ありがとう!」
 振り返ると蔓延の笑みで俺に手を振っていた。
 俺も手を振り返してリサを探しに行った。
「あなた…颯様?」