「私のこと…嫌い?」
 夜光さんはびっくりしている。
 嫌いなら、もう関わらないから。
 だけど、嫌われたくない…好きって言ってほしい。普通でもいいから。嫌いって言わないでよ…
「…好きだよ。」
 え、今好きって言った?
 好きって…恋愛の意味って勝手に思ってしまった。
 ち、違うよ。私は今、質問してそれに答えただけだからであって、友達としての好き…だから。勝手に勘違いするな、私‼
 で、でもとりあえず、嫌いって言われなくてよかった。
 いや、じゃあなんで冷たくしたの?
 私が混乱している間に夜光さんはどこかに行ってしまう。
「ちょ、夜光さん。待って‼」
「はあ、なに?」
 ため息をつきながら面倒くさそうに返事をする夜光さん。
 夜光さん、怒ってる?
 私が質問したくせに何も言わなくて一人で混乱してたから?
「ご、ごめんなさい、私が変なことを、いや、そもそも……とりあえず、ごめんなさいっ……!」
 私は家を出て走った。どこも行くところはない。
 とにかく走って走って走り続けた。
 私はいつも間にか公園にたどり着いていた。
 この公園、懐かしいなあ。小さいころはよく遊んだな。
 でも、その公園は雑草でまみれている。
 私はブランコに腰掛けた。
 ……なんでこんなことになっちゃったんだろう。
 やっぱり、私が何かしちゃったのかなあ。
 いや、違う。私が何かしたわけじゃない。そもそも、そんなはずなかったんだ。
 夜光さんが優しいから、こんな地味な私にも優しくしてくれただけで、本当は地味なこんなやつ、相手にしたくなっかったんだ。
 あたりは真っ暗。
 早く帰りたい。でも、帰っても夜光さんと気まずいな。
「はあ。」
 思わずため息をこぼしてしまう。
 でも…やっぱり、帰りたい。
 …夜光さん、迎えに来てよ。いつもみたいに「帰ろう。」って、言ってよ…
「伊藤‼」
 はあ、私、夜光さんに会いたくて幻聴が聞こえてきちゃったみたい。
「伊藤…リサ‼」
 近くで声が聞こえて顔を上げるとそこには夜光さんがいた。
 息を切らして汗をかいている。
 なんで……?
 相当走って来てくれたのだろう。
「やっと見つけた。本当に…心配したんだからな。」
―――ガバッ
 夜光さんが私に抱き着いてきた。
 抱きしめられるのは二回目。だけど、前回とは違う感じ。
 ち、力が強い…
「夜光さん、苦しい…」
「ごめん。」
 そういって少し緩めてくれた。
「ごめん。」
 二回「ごめん。」と謝る夜光さん。
「ん?さっきごめんって言ったでしょ?」
 そういうと夜光さんが首を振った。
「違う。家でそっけなくしてごめん。彼氏がいるのに抱きしめてごめん。」
 ん?彼氏?
「や、夜光さん。私、彼氏いないよ。」
「は?」
「本当にいないよ。好きな人も作ったことがないよ。」
 夜光さんは目を真ん丸にした。
「だって俺、花山ってやつから聞いて…」
 花山さん?あ、そういえば地味で好きな人を奪う女って夜光さんにばらすって言ってたな。
「夜光さん、もちろん地味で好きな人を奪う女ってことは聞いて…」
「聞いたよ。」
「ええ、……いや、誤解ですよ。好きな人を奪うなんてやってないですからね。」
「うん、知ってる。リサがそんなことするやつじゃないって。」
 信じてくれてよかった…ん?リサ?
 今夜光さん、リサって言ったよね。
 夜光さんに視線を送ると
「いいじゃん、リサって可愛い名前だし。」
 か、可愛い…
 私自身が褒められたような気がしてうれしかった。
 もちろん、お世辞ってわかっている。こんなに地味な私に優しくしてくれて、どれだけ夜光さんは優しんだろう。
「リサ。」
 名前を呼ばれて夜光さんに視線を戻す。
「帰ろう。」
 私は胸がいっぱいになった。
「うんっ」
 二人のすれ違いもなくなったことだし、一件落着だね。
 
 それにしても、夜光さん、前よりも優しくなっている気が……
 気のせい…かな。
 私の隣には夜光さんがいる。地味な私を受け入れてくれる。それだけで私はどれだけ幸せなのか、夜光さんは知らないだろうな。