あなたのことが好きすぎて困ってます。

 伊藤が保健室に行って、俺は気が気じゃなかった。
 おかげでため息が止まらないし、授業ではテストも半分以上解けなかった。クラスのやつらに本気で心配されているわけだ。
 はあ、このため息ももう、何回目だろう…
 今はただ、伊藤に会いたい。
 無意識に伊藤の席をちらちらとみてしまう。いないはずなのに…
 いつもは伊藤の席からシャーペンの音、教科書のページをめくる音が聞こえていたのに今は全く聞こえない。
 それはストーカー行為になるのか?
 こんなことは初めてだ。いなかったらモヤモヤする。
 あー、なんなんだ、この気持ちは…
 すると、誰かがこっちに小走りで来た。
 いかにもぶりっ子だ。俺はこういう女が一番嫌い。
 俺はすかさず、話しかけんなオーラでいっぱいにする。だがその女は、気にせず話しかけてくる。
「颯様。知っていますか?伊藤さんの過去を。」
 うるせー、話せかけてくんなよ。
 伊藤の過去なんて、伊藤に聞けばいくらでも出てくる。
 俺の無視なんてお構いなしというように続けて話してくる。
「伊藤さんが、地味なくせに友達の好きな人をとったことがあって…それに、今も遠距離の彼氏がいるらしいです。噂によると、相当ラブラブなようで…」
 伊藤が好きな人を取る?そんなことをするわけがない。
 そんなことをする奴じゃないってわかっているのに、モヤモヤしていく。
 違う、伊藤はそんなことをしない。しない…けど、もしそうだったら…
 嫌な想像ばっかりをしてしまう。
「伊藤はそんなことをしない。」
 睨みつけながら否定する。
「じゃあ、この仲良くしている写真は何ですか?」
 そういってスマホを突き出してくる。
 そのスマホに移っていた男女。女のほうは間違いなく伊藤だ。
 よく見てみると、男と伊藤が手をつないで楽しそうに歩いている。
 は?何なの、この男。ふっざけんじゃねえ。
 俺はその女を席に戻して自分の席に座った。
 そういえば彼氏がいるって、言っていた。
 彼氏がいる伊藤にとって俺は邪魔な存在?彼氏がいるのに、俺は伊藤の邪魔をしていたっていうことか?それは今も変わらない。俺は、伊藤にとって邪魔で迷惑な存在…
「これ以上、迷惑をかけられない。」
 そう思ったら、俺にできることはただ一つ。
 俺は伊藤から、少しずつ距離を置くことにした。
 それから俺は放課後に、伊藤の様子を見に行った。
「失礼します。伊藤はいますか?」
 そこには先生と話している伊藤を見つけた。見るからに寝起きの伊藤。
「あら、彼氏さん?伊藤さんならここにいるわよ。」
 彼氏じゃない。けど、彼氏と言われて嫌じゃない。
 最近、俺がおかしい…
「それとね、急で悪いんだけど、伊藤さんを家まで送ってくれるかな?体調が悪いみたいで…。先生は外せない用事があって。任せたわよ、彼氏さん。」
 そういって先生はあわただしく出て行った。
 伊藤の母親も学校には来れないだろうから、俺が連れて帰るしかないか。
 俺は伊藤の前まで歩いて背中を向けてしゃがむ。
 後ろから戸惑うような声が聞こえてきた。
「乗って。」
 病み上がりっぽいし、さっきからふらふらしている。本人は知らないだろうけど…
「ええ、いいよ。帰れるよ。」
 そういって伊藤が立つと、ふらふらと倒れる。
「おっと、いいから乗れって。」
 伊藤の倒れる寸前を助けた。
 こんなにふらついているのに本人は自覚してないとか、やばいだろ。
「ご、ごめんなさい…失礼します。」
 さすがにこのふらつきで歩くのは無理と思ったのか、俺にぎこちなく乗ってきた。
「よっと。」
 かるっ。朝ご飯は結構食べていたからもっと重いって思っていたのに。さすがに軽すぎないか?
 女をおぶったことがないからわからないけど。
 伊藤の荷物を持って歩き出す。
「重くない?」
「全然へーき。」
 伊藤と少しずつ距離を置く。
「何か食べたいものある?」
「特に。」
「じゃあ、カレーを作るね。」
「…いい。お前は寝てろ。」
 それ以上、伊藤は何も言わなくなった。
 家に着いて、伊藤の靴も脱がしてあげて、入る。
「「ただいま」」
 二人で声がかぶって少し、舞い上がってしまう。
 やっぱり、おかしい。こんなこと、前はなかったのに…
「夜光さん。もう下ろしていいよ。部屋まで歩くから。」
「いいや、足が痛い…って、リサ?」
 リサの目から涙が一粒落ちる。
 泣いてんのか?
 俺はいつの間にか、抱きしめていた。
 伊藤をずっと守ってあげたい。そう思った。けど、それは俺の役目じゃない。そういうのは彼氏がすること。
 はあ、だめだな。俺は。伊藤から距離を置くって決めたのに体が言うことを聞かない。
 しばらく抱きしめていた。落ち着き始めたころに話しかけた。
「落ち着いたか?」
 コクっとうなずく伊藤。
 ん?どうしたんだ?
 そう考えていると伊藤はこういった。
「私のこと…嫌い?」