4,真実と嘘のウワサ
「「「おねがいします。」」」
ついに始まった。球技大会。夜光さんに教えてもらったことを上手に発揮できるといいけどな。
と思ったら、思いっきりほかの女子とぶつかった。いや、ぶつかられた?
私はそのまま、しっかりとしりもちをついた。それに足をひねってしまった。
痛い。足がじんじんする。
今の、わざとじゃなかった?おかげで足が痛い。
これから、試合なのに…
そのまま試合を続け、私はミス連発。
みんなに迷惑もかけているし、私にボールが渡らなくなった。
そのままボールにさわれず、あと残り数秒となった。
「リサ、シュート‼」
体育館に夜光さんの声が響く。それと同時に一気にボールが飛んできた。うまくキャッチする。
夜光さんが信じて私にボールを渡してくれた。でも、私にできるの?
ここからだったら十分シュートは打てるけど、私にこんなこと…
「自分を信じろ‼」
 夜光さんの声がまた私に届いた。
 冷静になって遠くからシュートを打つ。
―――自分を信じて‼
 あと少しでタイムリミット。お願い…入って‼
―――ダン‼
 私のボールは見事、リングの中に入った。
 それと同時に終わりの合図もなる。
 決まった‼
「「「ありがとうございました」」」
 勝った。すごい…興奮してる。
「夜光さん、シュート決めれたよ。」
 夜光さんに改めて報告すると、にっこり笑ってこういった。
「うん、よく頑張ったな。」
 それから、夜光さんに優しく頭をポンポンとされた。
 びっくりしてその手から離れる。
 不意打ちをかけられて気がする。
「か、からかわないでくださいよ…」
 顔がすっごく熱い…
 は、恥ずかしい…
「颯様!何をしているんですか?というか、今日もかっこいいわ。」
 花山さん⁉夜光さんを追いかけてここまで来たのかな?
 いや、それじゃなくて…夜光さんがどんどん表情が硬くなっていく。
 あ、これ絶対機嫌が悪い時の顔―――――話しかけんなオーラ全開の時だ。
 花山さんはそんなのお構いなしというようにぐいぐいと夜光さんに話しかけている。
「さっき、リサちゃんにぶつかられたんです。だから足をけがしちゃって痛い。」
 ベラベラ出てくる嘘にびっくりしてしまう。
 花山さんにぶつかってないし…あ、試合前のことかな?でも、それはたまたまぶつかっただけじゃなくて?
 もしかして、さっきぶつかっちゃったことを私が花山さんにぶつかったって勘違いしたのかな?
「花山さん、さっきぶつかっちゃったところだよね。ごめんね、気付けなくて。」
 花山さんも怪我をしていたのなら、私のせいだ。
「は?ちがうし。何言ってんの?颯様、この女嘘ついてます。」
 いや、嘘ついてないよ。何言っているのか意味が分からない。
 もしかして花山さんは、私を悪者にしたい?
 いやいや、そんなことないよ。ただ、天然なだけだと思うけど……何か引っかかるなあ。
「リサは嘘をついていない。足が痛いのに何でさっき俺のところに走ってきたんだ?足が痛いんだろ。」
 夜光さんがズバッと言い張った。花山さんは焦った感じで目を泳がせている。
 もしかして、花山さんは嘘をついていたの?なんで⁉
 そう考えていると、花山さんはどこかに行ってしまった。
「大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫だよ。夜光さん、かばってくれてありがとう。」
 にこっと笑顔でお礼を言う。
 夜光さんがいなかったら、どうなっていたことか…
「何かあったらいけないから連絡先交換しとこ。」
 夜光さんが連絡先を交換してくれた。
 ええ、そこら辺の女子は夜光さんの連絡先を欲しがっているのに、私なんかがもらってもいいのかな。
「今〝私なんか〟って思っただろ。」
 ギクッと反応してしまう。そうと言っているように。
「そんなことないから。リサは、俺にとって特別だから。」
 特別?特別って、恋愛……なわけないよね。な、何を考えているの?そんなことないじゃん。
「じゃあ、夜光さん。私はこれで。」
 私はこれで終わり。早く沙絵ちゃんの野球を見に行かないと。
 バスケで全力を出して、まだ疲れているからか歩くのが遅い。
「ねえ、伊藤さん。」
 ん?今、名前を呼ばれたよね。どこから?
「こっちだよ、ねえ‼」
 振り返るとそこには花山さんがいた。
 い、いやな予感がする…
「なんで、こんなに地味なのにシュートが入るの?」
 じ、地味って…
「あの、自分を信じていたらできます。」
 少しコツ?コツになるのかな。私が思うコツを教えた。
 夜光さんが信じろって言ってくれたから。
「は?もういいや。あんたさ、小学校の時、友達の好きな人を取ったよね。」
 ひっ‼
 違う、あれはとったんじゃない。違う。
「颯様に言っちゃおっかなー。」
 花山さんが意地悪にこっちを見る。
 そ、それだけは、やめてっ‼
「やめてっ」
 それだけは…もう、あんなことは繰り返したくない。
 …夜光さんも離れて行っちゃう。
「じゃあ、私の言う通りにして。」
「嫌です…」
「じゃあ、言うよ。地味で好きな人を奪う女ってことをね。いやなら、言うことを聞いて。」
 私は、夜光さんにだけは嫌われたくなかった。
 もう、大切な人を失いたくない……一人ぼっちになりたくない。
「わ、わかりました。」

「ただいまあ」
 ふう、疲れた…
「おかえり。」
 リビングからこっちに出迎えてくれた、夜光さん。
「今から、夜ご飯急いで作るからね。」
 早くご飯を作らないと。夜光さんも待っていたわけだし。
 ん?なにか、いいにおいがするような…
「作っておいた。」
「え?」
 幻聴かと思って思わず聞き返す。
「だから、作っておいた。」
「えーーー‼」
 本当に⁉うれしい。
 食卓の上には豪華なごちそうがたくさんある。
「冷めないうちに食べよ。」
「うん、そうだねっ‼」
 私は部屋で着替えてリビングに行くと、夜光さんがもう一人分の準備をしてくれている。
「夜光さん、私たちは二人だよ。三人目の準備なんて必要…」
「スマホ見てみて。」
 スマホ?
 スマホを見てみると、一件の連絡が入っていた。
『リサ、颯君。今日、仕事が早く終わったから今から帰るね。晩ご飯には間に合うわ。』
 と、お母さんから入っていた。
「だから、みんなで食べようと思って。」
「わぁー、やった。久しぶりだな。お母さんとご飯だなんて。」
 想像しただけで楽しい。絶対楽しい。
―――ガチャ
「ただいまあー」
 二人で玄関まで走る。
「「おかえりなさい」」
「わあ、二人ともお出迎えしてくれたのね。ありがとう。」
 お母さんとはいつも時間が合わなくて話してもなかったから久しぶり。
「お母さん、ご飯食べよ。三人で‼」
「そうね、それにしてもいいにおいだわ。」
 お母さんをリビングに連れて行くと目を真ん丸にしてびっくりしている。
「なに、この料理。出前でも取ったの?」
「ううん、夜光さんがぜーんぶ作ってくれたの。」
 なぜか私が誇らしげに言ってしまう。
 それにしても夜光さんは、こんなに料理がうまいだなんて…
「颯君が作ったの?すごくおいしそう。」
 にっこにこで上機嫌なお母さんの横で「どーも」とまんざらでもない顔をしている。
「いただきまーす」
「いただきます」
「いっただっきまーす‼」
 私に続いて、夜光さんやお母さんも手を合わせていく。
 それぞれ、掛け声は違うけどほっこりする。
「お、おいしい…」
 感動するお母さんの横で私も目をかがやせていた。
「「どうやったらこんなにうまく作れるの?」」
 夜光さんも料理がおいしすぎて声がかぶってしまった。
 お母さんと顔を見合わせる。
「二人とも、仲良しだな。」
「「あったりまえだよ」」
 次々と言葉がかぶる私たちに夜光さんは温かい目で見守ってくれた。

「おはよう、沙絵ちゃん。」
「おはよう、リサちゃん。」
 私と沙絵ちゃんは最近の出来事など、他愛のない話をしていた。
「たしかに。おもしろいね。」
 後ろから足音聞こえてきた。普通の人がたてる音じゃない。怒りを含んだ音に聞こえるのは気のせい?
 振り返るとそこには花山さんが立っていた。
 嫌な予感…
「こっちに来て。今すぐ。」
 やっぱり。嫌な予感的中。今の私は断れない。
「行かなくていいよ…断ってもいいんだよ。」
 そういって沙絵ちゃんは言っているけど、私には行く以外の選択肢がない。
「ごめん、沙絵ちゃん。行ってくるね。すぐに戻るから。」
「え、リサちゃん…?」
 ごめんね、沙絵ちゃん…少しだから…
 私は沙絵ちゃんに罪悪感を抱きながらその場を後にした。

「私があんたを呼んだらすぐ来るって約束。まさか忘れてないよね。」
 忘れていないという意味で首を振る。
 そう、私がことわせない理由は、夜光さんに地味で好きな人を奪う女ということを言わない代わりに、花山さんの命令は絶対守らないといけないという謎ルールを作られた。
「はい、次はこの命令。夜光さんのことを一週間無視して。」
「えっ…」
 無視はさすがに…
「命令に逆らうの?いいの?逆らって。」
 ど、どうしよう…
 同棲しているから完全無視は無理。だったら秘密を……いや、無理っ‼
「はあ、もういいよ。命令に逆らうってことでいいね。夜光さんに言うから。いい?あんたはもう終わり。お疲れ様でしたー。」
「ちょ、まっ。」
 大変なことになってしまったのかもしれない…
 好きな人を奪ったというデマが流されて…夜光さんがそのデマを聞いて…
 私はとぼとぼとおぼつかない足取りで歩いた。
「リサちゃん、大丈夫って。ええ、どうしたの?顔真っ青だよ。」
 心配で見に来てくれたらしい沙絵ちゃんがびっくりした様子で来てくれた。
「大丈夫、だから…」
「いやいや、どう考えても、大丈夫じゃないでしょ。保健室に行こう。」
「ええ、大丈夫だよ…」
「ダメだよ。一緒に行こ。」
 本当に大丈夫なのに…
 あ、でもめまいがする…
 私がふらついたのを沙絵ちゃんがすかさず支えてくれた。
「保健室まであとちょっとだからね。がんばって。」
 そのあと、無事に保健室までついてしばらく寝ていた。

 ん…どこかの天井…独特なにおい…はっ!
 バサッと勢いよくベットから起きる。
 そうだ私、夜光さんに秘密がばれてそのショックで体調が悪くなって保健室に……そうだ。秘密がばれちゃったんだった。ど、ど、ど、どうしよう…いや、どうすることもできなくない?
「あら、伊藤さん起きたのね。」
 そばで保健室の先生が話しかけてくれた。
 時間は、もう五時…本当なら帰る時間だ。
 丸一日寝ていたみたいだな。
「失礼します。伊藤はいますか?」
 そこには今一番顔を合わせたくない人―――――夜光さんが立っていた。
「あら、彼氏さん?伊藤さんならここにいるわよ。」
 先生…夜光さんは彼氏じゃないし、わざわざ場所を言わなくていいのに…
「それとね、急で悪いんだけど、伊藤さんを家まで送ってくれるかな?体調が悪いみたいで…。先生は外せない用事があって。任せたわよ、彼氏さん。」
 ええ、タイミングが…今、一緒に帰っても夜光さんがどこまで知っているかわからない限り、下手にしゃべれない。
 先生は急いで保健室を去っていった。
 今、私と夜光さんの二人っきり。
 すると、夜光さんが私の前まで歩いてきて、私に背を向けてしゃがんだ。
 訳が分からず見つめる。
「乗って。」
「ええ、いいよ。帰れるよ。」
 そういって立つと、ふらっと倒れてしまう。
「おっと、いいから乗れって。」
 夜光さんにまた倒れる寸前を助けてくれた。
 さすがにこのふらつきで歩くのは無理か…
「ご、ごめんなさい…失礼します。」
 ありがたく、背中に乗った。
「よっと。」
 そのまますたすたと歩いていく。いつの間にか私の荷物も持ってくれている。
「重くない?」
「全然へーき。」
 …なんでここまで優しくしてくれるの?花山さんから聞いたんじゃないの?
「何か食べたいものある?」
「特に。」
 そっか…
「じゃあ、カレーを作るね。」
「…いい。お前は寝てろ。」
 そっか…
 さっきから、冷たいような気がする…なんで?
 訳も分からず、冷たくされるからどうしようもできない。
 何か悪いことしたかな…いや、特にしてない…
 こういう時は、思い切って聞いてみよう。
「夜光さん、なんで…」
 怖くて聞けない。勇気が出ない。もしも、絶交されていたらどうしようって、嫌われていたらどうしようって。
「なんか言った?」
「…ううん。なんでもない。」
 胸がキュウって締め付けられるようなそんな感覚だった。
 なんで?なんでそんなに冷たいの?何かした?私、夜光さんに何かしてしまった?ねえ、答えてよ…なんでか、教えてよ…
 そんなことを心で叫んでも答えてくれはしない。
 私はもどかしくて、夜光さんの服をぎゅっと握りしめた。
 私はいつの間にかいつもの夜光さんに戻っていたらいいなと思っていた。
「「ただいま」」
「夜光さん。もう下ろしていいよ。部屋まで歩くから。」
「いいや、足が痛い…って、伊藤?」
 夜光さんがこっちを見て驚いている。
 あ、私、泣いているんだ。
 次々と流れていく涙に夜光さんは戸惑いながらも抱きしめてくれた。
 なんでそんなに優しくするの?嫌いなら突き放してくれればいいのに。
 なんでさっき、冷たくしていたの?私、何か悪いことした?
 なんで?さっきのは、私の勘違い?だったら、また笑ってくれるよね。楽しく会話できるよね。
 期待してもいいの?ねえ、答えてよ。
 そう心の中で叫んでも夜光さんには届かない。
 もう、思い切って聞いてみよう。そうじゃないと、もう聞けないかもしれない。
「落ち着いたか?」
 そういいながらそっと話してくれる。
 聞かないと。ちゃんと。はっきりさせるんだ。
「私のこと…嫌い?」
 思い切ってそう聞いた。