やばい、寝すぎたっ‼
 私の朝は、身支度をしてから朝ご飯を作って一人で食べることの繰り返し。
 お母さんの朝ご飯は会社の人と食べるらしい。
 少し寂しいけど、これも仕事だから。
 制服を着て髪の毛をくしでといて、だだだっとあわただしく階段を下りる。
「…はよ。」
 そこには制服姿の夜光さんが。
 なんで夜光さんが……あっ!夜光さんはうちに居候してるんだった。
 わ、忘れてた。
「朝ご飯は何がいいですか?」
 嫌いなものや食べたいものがあったら遠慮なくいってほしい。
「…卵焼き。」
 え、可愛い…
 いつも女子からの歓声を受けても塩対応の夜光さんが卵焼き⁉
 ぎゃ、ギャップがすごい。
「なに?似合わないって?」
「いいえ。ギャップだなと思いまして。」
 少し気分を損ねてしまったらしい。
 私は朝ご飯の準備をする。
 あっ!お守り‼
「すみません。これ、落としましたか?」
 夜光さんにお守りを見せながら聞くとびっくりしていた。
「落としてたのか。お前が拾ったの?」
「はい。ごめんなさい。」
 私でごめんなさいねっ!
 もう、本当に嫌な人だな。
「別に。ありがと。」
 ありがとうって言えるじゃん。いっつもこんなにふてぶてしくて、生意気なのに。
「あとさ……」
 ん?と、何かを言いかけた夜光さんのほうを向くと夜光さんの顔がすぐ顔の前にあった。
 夜光さんはそのまま、左手を私の肩へ。右手は私のあごへ。
 そしてあごに添えられた手が私の顔を上げて視線が絡み合う。
 夜光さんの目には顔を真っ赤にした私の姿が映っていた。
「―――意外ときれいな顔してんのな。」
「……へ?」
 き、綺麗な顔って…私、一度もそんなこと言われたことないから……
 夜光さんは何もなかったような感じで、どこかに行ってしまった。

「できました。どうぞ、食べてください。」
 さっき戻ってきた夜光さんと座って食べる。
 私たちの目の前はたくさんのものが並べられている。
 サラダやソーセージ、夜光さんが好きな卵焼き。そのほかもたーくさん作ったよ。
 私はもともと少食だから、こんな量を作らないけど今日は張り切っちゃった。
「いただきます。」
「ど、どうですか?」
 夜光さんが卵焼きを口に運ぶ。お口に合うといいんだけど…
「ん。うまい。」
 よかったー‼
「…敬語やめろよ。同級生なんだし。」
 敬語をやめる…か。これは、夜光さんが少し心を開いてくれた証拠?
「おいしいですか?いや、おいしい?」
 少し、ぎこちなかったかな?
「ん。」
 少し難しいけど、頑張ろう。
 その後もテンポよく食べていく夜光さん。私も食べよう。
「いただきます。」
 うん。我ながらおいしい。うまくできたと思う。
 もう少し塩を入れたほうがよかったかな?薄い気がする。
 夜光さんは甘い系を食べている。あれ?卵焼きをあまり食べていないな。
 なんで?…おいしくなかった?
 うーんと卵焼きとにらめっこしながら考える。
 あっ!卵焼き、もう少し甘めがよかったんじゃない?
 私は急いでキッチンに行ってまた卵焼きを作る。砂糖を多めにして、作り直す。甘いものが好きという夜光さんだから多分卵焼きも…
「なにしてんの?」
 夜光さんがこっちに来た。
 よし、味見実験台確保。(意味:おいしくないかもしれないからほかの人に食べさせて感想を聞くという、私が作った言葉)
「はい。食べて。」
 夜光さんの口の前にもっていく。
 一瞬、いやな顔をしたけど食べてくれた。
 もしかしてこれ、私があーんしたことになってるんじゃない?大胆なことをしてしまった⁉
 私は耳まで真っ赤になってしまう。
 夜光さんの顔を見れない。
「もう一つ、ちょうだい。」
 気に入ってくれたみたいでよかった。
「いいよ。」
 …ん?夜光さんは口を開けている。
 どういうこと?
 訳が分からず首をかしげる。
「食べさせて」
 食べさせる⁉
 意地悪にほほ笑む夜光さん。
 うわ、意地悪な顔してるよ。というか、こんな仕草でも色っぽくってかっこいい。私はどうしようか迷っていると…
「はやく。」
 ええ。もう、どうなっても知らないっ!
 卵焼きを口まで運ぶ。
「どう?おいしい?」
「一番おいしい。」
「やった。また作るね。」
 にこっと笑顔を向ける。すると少し顔を赤らめてこういった。
「待ってる。」
 夜光さんとの仲を少しだけ深められた私は学校に向かう準備をする。
「あ、どっちが先に家を出る?私が先に出ようか?」
 ばれたくないから家を出るのは少しずらしてからがいいんだけど…夜光さんはどうかな?
「道がわからないから、案内して。」
 ん?ということは、一緒に登校…?
「一緒に行く。」
 えー‼夜光さんと一緒に登校って、女子からの視線が厄介になりそう…どうなる事か…
「早く行くよ。」
 もう行くの⁉私、まだ準備終わってない。
「ちょ、ちょっとまって。」
 廊下をあわただしく走る。
 あとは夜光さんの所へ駆け足で向かう。
 そのとき、足が絡まってつまづいた。体はそのまま徐々に倒れていく。
―――うわっ
 こける。そう思って目をつぶった瞬間、ぎゅっと何かに包まれた感じがした。
 …え?痛くない?
 ゆっくりと目を開ける。
 右と左にたくましい腕、がっしりとした体、目の前には夜光さんの顔…
 もしかして私、夜光さんと抱き合ってるみたいになってる⁉
「ご、ごめんなさいっ」
 さっと夜光さんから離れて乱れた髪を両手で直す。
 穴があったら入りたい…。
 しっかりとした筋肉、うちと違うにおい……いや、何思い出しているんだ私は‼
 ぶんぶんっと頭を振ると、夜光さんに変な目で見られたが、気にしないことにした。
 これから夜光さんと登校か…。
 もう、夜光さんと登校して、どうかなっても知らないんだからね。
 と、意気込んで外に出たのはいいものの…気まずい。
 どういう接し方をすればいいのかもわからないし、どう話していいのかもわからない。
 それに気のせいかもしれないけど、さっきからチラチラ見られているような気が…
 夜光さんのほうを見てみると、余裕そうな表情でいつも通りだ。
 も、もうっ!気まずいとかないの⁉
 学校に近づくたび、視線もさらに集まってきて私はもうパニック。
「「「きゃー‼」」」
「うそっ、やだっ‼」
 ど、どうしよう…いや、どうすることもないんだけど。
 とにかく居心地が悪い。泣いている人、私をにらみつけてくる人たち。
「じゃあ、私はこれでっ」
 やっと私の教室が近づいてきたら、夜光さんに一言かけて教室に向かう。
 走っていると先生とすれ違った。
「おーい、廊下は走るなよー」
「はーい。」
 先生の前だけ歩く。先生が角を曲がって見えなくなったら教室まで走る。
 あんなに目立ってたけど、大丈夫かな?
 角を曲がると誰かが前から来た。
 やばい、当たる‼足を緩めたのはいいものの、すぐには止まれない。
―――どんっ‼
 痛っ!
 すごく走っていたから誰かとぶつかってしまった。私はしりもちをついて相手はぎりぎりもう一人の友達が支えてくれていて倒れていなかった。
「ご、ごめんなさい」
 慌てて立ち上がり頭を下げて謝る。
「ん?待ってこいつ、夜光颯様といっしょに登校してたって噂のやつじゃない?」
 え、さっき登校してきたのに、情報共有はやくない⁉
「マジ⁉。あの抜け駆け女だ。」
 なんか、すごい噂が立っているな…
 それにすごい勘違い⁉
 抜け駆けしてないし、そもそも夜光さんに好意を持っていないです。といっても、信じてくれないだろうな。
 無駄に居候していることをばらさないほうがいいから。
 否定したい…。ばれるから言ったらだめということはわかっている。けど、抜け駆け女って噂はさすがにきついな。
 でも、我慢我慢…
「まあ、今日はいいかな。今度、たくさん遊ぼうね。」
 …遊ぼうね?どういう意味だろう。
 それにしても相当噂になっているみたいだな。
 一人でぼーっと突っ立っていると、隣に人影が現れた。
「なにやってんの?早く行くよ。」
 や、夜光さん⁉
 慌てて周りを見渡す。
 誰もいないよね…うん、誰もいない。
 夜光さんがすたすたと言ってしまわないように隣をキープしながら歩く。
「夜光さんっ‼朝の登校が相当なうわさで大変にっ‼私なんて、抜け駆け女って言われてる。」
 すると夜光さんは歩くスピードを少し緩めた。
「俺が誰と仲良くしようと勝手だろ。」
 ……たしかに。夜光さんが一緒に登校したいって言ったんだよね。そんなの夜光さんの勝手。周りにどうこう言われる筋合いはない。
「それじゃあ夜光さん。今日は何か予定ってある?」
 早めに晩ご飯を用意しようと思って聞く。
「部活。」
 部活って、夜光さん部活やってたの⁉
「何の部活?」
「…バスケ。」
 へえ、バスケやってるんだ。
「伊藤の得意なスポーツは?」
 得意なスポーツ、か。
「ないかも…。運動音痴だし。」
 ぽつりとつぶやいた。
「ふはっ‼運動音痴なの想像できる。バスケのドリブルもできないんでしょ!」
 あ、笑った。初めて見た。普通の笑い方もするんだ…
 って、一瞬忘れてたけど、ドリブルもできないって…失礼じゃない⁉
「ドリブルくらいできるもんっ‼」
 ドリブルくらいはできるよ…
 そこまで運動音痴じゃないし。
 夜光さんは不敵にほほ笑んでこういった。
「じゃあ、やってみる?」
 やってみるって、バスケするの?
「球技大会もあるし、ちょうどいいじゃん。」
 きゅ、球技大会…わ、忘れてた。運動音痴の人にとって球技大会は最悪の大会。私が頑張って結果を出さないと周りに迷惑をかけるし、勝敗も決まるんでしょ…。
 む、無理じゃない…?
「やるの?やらないの?」
 うーん、みんなに迷惑かけないように少しでも強くなれるんだったら希望はあるかも…
「やるっ‼教えてください、師匠‼」
「じゃあ、今日俺の部活が終わったら、家の近くの公園集合。」
 きょ、今日⁉急すぎない⁉
 そういってすたすたと歩いて行ってしまった。
 でも、やるしかないか。迷惑かけたくないし。
 そう思って力強く教室へと向かった。

「リサちゃん‼さっき、夜光さんと登校してきたって本当⁉」
 沙絵ちゃんが走って私の所に来た。相当興奮しているみたいだ。
 なんで知ってるの⁉
 私の心を読んだかのように沙絵ちゃんが続けてこう言った。
「もうそこらじゅうで噂されてるよ。」
 ええ、もうそんなに…
 ちゃんと沙絵ちゃんには、話さないとな。
「沙絵ちゃん。落ち着いて聞いてね。」
 私はこれまであったことを話した。沙絵ちゃんに秘密にしたくなかった。高校で初めてできた友達だから。
 ゆっくり話す私を、沙絵ちゃんは優しくうなずきながら聞いてくれる。
「こういうことがあったの。」
 本当に夢にも思わなかった出来事。
「…びっくりしちゃった。大変だったんだね。」
 本当に大変。でも、夜光さんがいても悪くない。
 お兄ちゃんが出来た気分…になれたらいいなとは思っている。夜光さんはガードが堅いから。
「何かあったら言ってね。話を聞くことしかできないかもしれないけど、力になるから。」
「ありがとう、沙絵ちゃん。」
 そう、私は親友がついているから何があっても大丈夫。
「みんな席について。ホームルーム始めるよ。」
 先生が入ってきたタイミングでみんなが席に着き始める。
「じゃあ、今から再来月の球技大会の出るスポーツの項目を決めます。二つ決めてください。」
 始まった。球技大会の種目決め。選択肢はサッカー、バスケ、バレーに野球があるみたい。
 どうしよう…全部できない。ルールも知らない。どうなっちゃうんだろう。
 バスケは夜光さんと特訓するからバスケにしようかな…
「じゃあ、決まった人から発表して。決まらなかったら足りないところに入ってもらうからね。」
 ええ、バスケにしようかな…出席番号順だから発表があと少し。どうしよう…早くしないと。
 沙絵ちゃんなら何にするかな?でも、聞く暇がないし…
 そして私の番が来てしまった。
「ええっと、私は…ば、バスケで。」
 先生が「バスケね。わかったわ。」といいながら黒板に正の字を描いている。
 夜光さんのほうを見ると黒板を見つめている。本当にバスケを選んでよかったんだよね。
 みんなの発表を聞くと、いろいろと意見が分かれているみたいだ。沙絵ちゃんは何でもできるから人数の少ないところを選んだみたい。夜光さんもバスケ。私といっしょだ。
 その後の女子たちは夜光さんと同じがよくて争奪戦。譲ってほしいとか変わってほしいと騒いでいる。
 するとその中の花山さんと目が合った。花山さんは、にやりと笑っていた。ぱっと視線をそらしてうつむく。
―――なんとなく嫌な予感がする。
「ねえ、伊藤さん。バスケ変わって。颯様といっしょがよくて。」
 やっぱり来た。
「ああ、ええっと…」
 前にもこういうことがあった。席の交換を持ち掛けられた時。
 はっきりと断らないと、と思って声を出した時。
「ごめんなさ…」
「伊藤が嫌がってんだろ。」
 横で声がしたかと思ったら夜光さんがかばってくれていた。
「そ、そうだよねー。こんなブスとしゃべるなって意味だよね。颯様って天才だよねー」
 あははと苦笑いを浮かべながら私に暴言を吐いていく。
 ぶ、ブス…。わかってはいたけど、いざ目の前で言われると傷つくな。
 夜光さんもこれ以上何も言ってくれない。ブスってことなのかな。結構傷つくんですけど…
 そのあとササッと花山さんたちは自分の席へと戻っていった。
 はあ、今日の放課後に夜光さんとバスケ練習があるのにこんなに暗くなっていたらダメだよね。せっかく私のために時間を割いて教えてくれているんだから。
 私は放課後までに暗い気持ちをどうにかしようと思って忘れるようにした。

 私は家に帰りながら考える。
 夜光さんとの練習がばれたら、学校生活に支障が出るかもしれない。
 ううん、怖がっていたらだめだ。夜光さんにお世話になるんだから。それに、家の近くの公園って普段、人が少ないところだから見つかる可能性も低い。これ以上変な噂をされたら、平穏な私の学校生活がなくなっちゃう。
「ただいまー」
 あれ?夜光さんがいない?
「夜光さーん、どこー?」
 家中を探してもいない。そもそも靴もない。どこかに行ったのかな。でも、今日は私とバスケの練習する日だよ。ちゃんと約束したから。
 すると、ダイニングテーブルの上に見覚えのない紙が置いてあった。

 りさへ
 さきに公園行っとく。準備運動にそこらへん走っているから、いないかもだけど。そのときは公園で待ってて。すぐに戻る。

 そういうことか。もう、どこかに行ったかと思ったじゃん。
 私は階段を駆け上がって自分の部屋に入る。ジャージに着替えて髪を一つにくくって家を出る。
 やばい、結構時間がたっちゃった。夜光さん、待たせてしまってないかな?
 はあ、はあ、はあ…
 公園に近づくと人影が見えた。……夜光さんだ。
 私は足を止めてしまった。
 夜光さんはそのままドリブルを続けて綺麗にシュートを決めたからだ。
 綺麗……夜光さんがボールをリングの中に入れる瞬間、時が止まったような、時間がゆっくりになったような気がした。
 って、見とれている場合じゃない。夜光さんのほうに行かないと。
「夜光さん、待たせてごめんなさい。」
 少し息を乱しながら夜光さんに話しかける。
「別に待ってない。」
 本当に待ってないのか、優しさで待ってないと言ってくれたのかわからないけど、よかった。
「さっそくだが、どのくらいできるのか実力を見る。」
 実力…私、去年の体育の成績すごく悪かったんだよね。期待されていないといいけど…
 ボールを夜光さんから渡された。
 バスケットボール、だっけ?結構重い。それに結構固い。こんなに重くてかたいボールをあんなに高く軽々と狙った位置に打っていたの?普段、使っているボールより全然重いし、コントロールがいつもよりうまくいかない。
「シュート打ってみて。」
 しゅ、シュート…えっと、あのリングの中にボールを入れればいいんだよね。
 いや、できなくない⁉
 まあ、一か八かやってみるか…
 えいっ‼
 私が投げたボールは、リングの手前で落ちた。
 やっぱり…。
 私はあの高い高いリングにボールが入ることはないと、実感した瞬間だった。
「ど、どうですか?」
 恐る恐る夜光さんに聞きに行く。
「やっぱり下手だな。」
 真剣な顔ではっきりと言い切られた。
 そ、そんなはっきりと言わなくても…
「でも、基礎をしっかりと覚えたらきっとシュートは入る。」
 基礎か…バスケの基礎って何だろう。
 私の心の中を読んだかのように答えてくれた。
「まず、ボールを胸の前に持ってきて。弧を描くように投げて。」
 私はリングを前に夜光さんに教わったことを早速実践しようと夜光さんの言葉を思い出す。
 胸の前から弧を描くように…
 するとボールはきれいにリングの中に吸い込まれるように入った。
「わあ、夜光さん入ったよ‼」
笑顔で夜光さんに駆け寄る。
 初めて入った。バスケって楽しい。
「上出来。」
 私はさっきのシュートがまぐれかはわからないけどずっとシュート練習を続けていた。入った感覚と、達成感に包まれて時間が立つのが早く、夜光さんから温かい目で見られてうれしかった。
―――こんな時間がずっと続けばいいのに。

「痛いよー」
 全身筋肉痛になった私は、沙絵ちゃんに慰められている。
 あの優しい楽しかったバスケ練習はどこへいったんだろう。一昨日は優しいシュート練習だったけど、昨日、夜光さんが私に地獄の練習をさせたからだ。
 内容は、ドリブルの無限練習。ずーっとドリブル。まあ、私はドリブルが下手だからだと思うけど…。
 そう、私は一番ドリブルが下手。といっても、特別シュートやパスがうまいわけではない。シュートもパスも結構下手。
 でも、確実に成長している。これも、夜光さんのおかげ。それなりに感謝している。
「頑張ったね。球技大会まで約二か月。その調子だよ‼」
 沙絵ちゃんはいつでも優しい…
「ありがとう、沙絵ちゃん。」
 よし、もっとがんばろう。
と、意気込んだのはいいものの、夜光さんとの都合がうまく合わず、練習する日にちが少なかった。

 おいしい…
「夜光さん、これすごくおいしい。」
 今日は球技大会。夜光さんが気を使って朝ご飯を作ってくれたのだ。
 それにしても、本当においしい。
「夜光さん、なんか家で作ってたの?」
 こんなにおいしいなら、いつも家事を手伝っていたとか、全然ありそう。
「別に。何もしてない。」
 ええ、いつも朝ご飯を作っている私でさえ夜光さんにはかなわないのか…
「でも、卵焼きは私のほうがうまいもんっ‼」
 やけになってそういった。
 卵焼きくらい…私のほうがうまい、よね。
 うーん、自信がなくなってきた。
「ふーん、じゃあ勝負する?」
 勝負…?
「負けたらアイスおごりね。」
「絶対負けないから。」
 もしかして、私の得意料理をなめている⁉
「いいよ、制限時間は5分。卵焼きね。」
「「よーい、スタート」」
 唐突に始まった卵焼き対決。
 絶対負けない。負けられない。カチャカチャと二人でシンクロして卵を溶く。
 工夫をして無事二人とも完成。
「「いただきます。」」
 まず、私の。うん、おいしい。
 次に夜光さんの。おいしい。これはいい勝負なのでは?
 夜光さんを見てみると眉間にしわを寄せていた。
 おいしくなかったかな?いや、結構甘めにしたからおいしいと思うけど…
「俺の負け。」
「ええ、負けでいいの⁉」
「だって、今までで一番おいしかったし。」
 最後のほうは声が小さくて聞こえなかったけど、一番おいしかったって言ったよね。
「おいしいの?」
 いたずらっぽく聞いてみたら顔をそらして少し耳が赤くなってコクっとうなづいた。
 可愛い…
「あ、時間がない。」
 夜光さんがぽつりとつぶやいた。
 え、時間…って、今日は球技大会だった。すっかり忘れてた。
「やべ、早く行くよ。」
 二人でばたばたに準備して家を出る。
「二人でいって、騒がしくならないかな?」
 前みたいにならないかな?
「今更?もう手遅れじゃない?」
 夜光さんに言われて周りを見るとこっちをちらちらとみている女子たちが…
 うう、視線が痛い…
「あ、そういえば夜光さん。私にバレーを選ばせたのは何でですか?」
 私は夜光さんに聞くといいにくそうに頭をかいている。
「あー、あれは、バレーって俺が立候補するからリサも…」
 俺がいるからリサも?
「ってことは俺がいるから大丈夫、的な?」
「わざわざ声に出して言うな‼」
「あははっ‼」
 するとあっという間についてしまった。
「じゃあ、夜光さんまた後で‼」
 そういって走り出す。もう、前と変わらないじゃん。
 でも、少し体力が増えたって思うのは気のせい?
 夜光さんのおかげだったらうれしいな。