エンドロールを巻き戻せ

「えっ、、、?」

 私は突然のマスターの申し出にびっくりして一瞬止まる。

「だから、お嬢さんの願いを叶えてあげますよ。
最初から彼氏と付き合わなければ、恋愛は始まらない。つまり振られる事もないわけです。」

 マスターの言っている意味がわからなくて、私はただ、ぽかんとする。
マスターは何を言ってるんだろう。
私と一彩が付き合ったのは、高校一年だ。
その時に戻らない限り、付き合わないなんて無理だ。

「マスター、私が酔ってるからって、からかってません?私そこまで酔ってないですよ。」

「からかってなんていないよ。
彼と付き合う前に戻って、今度は彼と付き合わないという選択をしたらいい。
少なくとも、そうしたら失恋して、今みたいに悲しみに打ちひしがられる事はないからね。」

 言ってる意味はわかるけれど、そんな事は不可能だ。

「不可能って思ってるかい?」

私は思わず「はい!」と大きな声で返事をする。
 マスターは裏の方へひっこんだかと思うと、今度は小さな小瓶を持ってやってきた。
それは、香水のようだった。綺麗なガラスで出来た小瓶に液体が入っていた。

「何ですか、、、?」

「人の記憶に最も残るのは香りだよ。
その香りをかいだだけで、昔の自分に戻る事が出来るんだよ。」

 私は、マスターの冗談に笑おうと思ったが、マスターの顔が真剣なので何も言えなくなってしまう。

「高校一年生の私に戻れるって事ですか?」

 私が聞くと、マスターは頷く。

「いや、でもそんな事できるわけないと思いますけど、、、。」

マスターが私の前に小瓶を置く。
えっ、、、?本当に嗅ぐの?

「いっ、、、いやぁ、、、。どうかな?タイムスリップしちゃうって事ですよね?
あはは、、、小さい時から映画とか見て憧れてはいましたけど、まさかねぇ、、、。」

「一つだけ条件があります。
一度戻ったら、戻った時より以前には、もう戻る事ができません。そして、夢から覚めた時点でまたこちらの時間に戻ってきます。」

「この香りを嗅いだら眠くなるって事ですか?」

「さよう。付き合う前に戻って、彼氏と付き合うのを阻止すればいいんです。」

 私は小瓶を見つめる。大丈夫なんだろうか。
多分マスターは愚痴愚痴言ってる私に、冗談を言っているだけだと思うけれど。
なんだかこのマスターが冗談を言う人に見えないから不気味だ。

でも、私はなんだかもう投げやりな気分だった。
この苦しみから逃る事ができるなら、私はもうなんでもよかった。

 どうにでもなれという気持ちで、小瓶の蓋を開ける。
そうするとその瞬間小瓶の中から、何処かで嗅いだ事のあるような、懐かしい香りがブワッと一気に広がっていく。

 私は懐かしくて、戻りたいような切ない気持ちになってくる。
 
(何なのこの匂い、、、懐かしくて泣きそう)

そうしている間に私は猛烈な眠気に襲われて眠ってしまった。