「分かんないわよ! こういうのは、場所やサービスが良い分、高くなるのよ!」
「ふざけるな、そんな実態の知れないものを価格に載せるなど……。これでは、俺は何も注文出来んぞ! 正直、飲み喰いどころか、ゲロを吐きそうだ!」
「私だって悪いとは思っているわよ!」
「東京都の最低賃金は、時給1072円。つまりこいつは、1時間一生懸命に働いても飲めない代物だ! アンタ、1時間働かされて『これが対価だ』とコーヒー一杯に満たない報酬を出されたらどう思う!?」
「最悪な気分なのは分かったわよ! 今日の費用は、半分後で返すから!」
半分……。
つまり、コーヒー一杯で550円か。
それでも高い!
「8割だ!」
「無理、6割!」
「7割5分!」
「無理だって! な、7割!」
「7割3分だ!」
「細かい! 分かったわよ、それで良いわよ……」
よし、勝った。
これでコーヒー一杯、197円。
コーヒーとしては高いことに変わりはないが……。
挨拶の費用と思えば、致し方ない。
「……決まったかね?」
親父さんの目が、何やら怪しむように光っているように見える。
年齢相応の聴力なら、まさか今のやり取りが聞こえていた訳ではないだろうが……。
正直、同棲までするカップルとしては、かなり怪しく映ったのだろう。
「え、ええ。決まりました。雪華さんと、何が食べたいか話しておりまして……。失礼しました」
「それで、何を食べるのかね?」
「いえ、生憎俺は満腹ですので……。コーヒーのみで」
「ふむ。そうか。君も食べるかと思い、ワシ等はピザを頼んだのだが――」
「頂きます」
即答で言い切った所で、右足の甲に激痛を感じた。
川口さんがテーブルに隠れて思いっきり足を踏んでいる。
こいつ……顔では満面の笑みを浮かべているのに、なんて器用なんだ!?
誘惑に乗せられても仕方がないだろう。
高級店の、高額を取るピザなんだぞ!?
何を焼いているのだ、何をトッピングしてどんな味なら、それだけの金を堂々と徴収出来るのか、気になるだろうが!?
「まぁまぁ、南さんは私たちに合わせてくれてるのね。気遣いが出来る御方ね」
「そ、そうなの! お母さん、お父さん。昭平さんはね、そう言う気遣いもしてくださる人なのよ」
「ふん……。まぁ、その辺りは料理と飲み物が届いてからじっくり見極めさせてもらおう。すいません、注文よろしいかな?」
親父さんは店員に声をかけ、手早く注文をしていく。
これだけの価格を見て、身じろぎもしないとは……。
まさか、富豪なのか?
いや、あり得る。
そうであれば、娘の金銭感覚もバグる訳だ。
そうして、飲み物と軽食は直ぐにやって来た。
確かに、手早い。
だが少し早いだけで高額を請求するのはどうなんだろうか。
ファストフード店なら、もっと早いのに安いぞ?
店員が綺麗な服を着て、丁寧な接遇をすることにそれだけの付加価値があるというのか?
「それで、南くんだったな。君は娘のどこが好きなのだね?」
「全てです」
事前に打ち合わせをしておいた。
絶対に聞かれるだろうから、と。
キチンと考えようとしたが、この短い期間の偽装同棲。
しかも殆ど顔を合わせていないか、喧嘩ばかりの関係だ。
説得力がある好きな所など、語れるもはずがない。
だったら全てと即答することで黙らせようと話合ったのだ。
「まぁ、即答! それも全てなんて……。ロマンチックね~」
「そうなの。勿論、まだ交際して日が浅いから、これからお互いに色々な面を見るでしょうけどね。私たちは、それも乗り越えていくつもりよ」
よくもいけしゃあしゃあと……。
俺をロジハラモンスターと言っていたが、アンタは嘘つきモンスターじゃないか。
正直、恐ろしいぞ。
「ふん、底の浅い答えだ」
親父さんは俺たちの考えた答えに納得がいかなかったらしい。
腕を組んで眉間に皺を刻み、不機嫌そうにしている。
「娘のどこが特に好きなのか。具体的に言ってみなさい」
なん、だと?
具体的に……。
それは、予想だにしていなかった。
横目に川口さんを見れば、戸惑うように視線を俺と親父さんへ行ったり来たりさせている。
お袋さんも楽しそうに微笑むばかりで、止める気配はない。
ここはアドリブで乗り切るしかないか……。
「……痛みを知っていること、ですかね」
「ふざけるな、そんな実態の知れないものを価格に載せるなど……。これでは、俺は何も注文出来んぞ! 正直、飲み喰いどころか、ゲロを吐きそうだ!」
「私だって悪いとは思っているわよ!」
「東京都の最低賃金は、時給1072円。つまりこいつは、1時間一生懸命に働いても飲めない代物だ! アンタ、1時間働かされて『これが対価だ』とコーヒー一杯に満たない報酬を出されたらどう思う!?」
「最悪な気分なのは分かったわよ! 今日の費用は、半分後で返すから!」
半分……。
つまり、コーヒー一杯で550円か。
それでも高い!
「8割だ!」
「無理、6割!」
「7割5分!」
「無理だって! な、7割!」
「7割3分だ!」
「細かい! 分かったわよ、それで良いわよ……」
よし、勝った。
これでコーヒー一杯、197円。
コーヒーとしては高いことに変わりはないが……。
挨拶の費用と思えば、致し方ない。
「……決まったかね?」
親父さんの目が、何やら怪しむように光っているように見える。
年齢相応の聴力なら、まさか今のやり取りが聞こえていた訳ではないだろうが……。
正直、同棲までするカップルとしては、かなり怪しく映ったのだろう。
「え、ええ。決まりました。雪華さんと、何が食べたいか話しておりまして……。失礼しました」
「それで、何を食べるのかね?」
「いえ、生憎俺は満腹ですので……。コーヒーのみで」
「ふむ。そうか。君も食べるかと思い、ワシ等はピザを頼んだのだが――」
「頂きます」
即答で言い切った所で、右足の甲に激痛を感じた。
川口さんがテーブルに隠れて思いっきり足を踏んでいる。
こいつ……顔では満面の笑みを浮かべているのに、なんて器用なんだ!?
誘惑に乗せられても仕方がないだろう。
高級店の、高額を取るピザなんだぞ!?
何を焼いているのだ、何をトッピングしてどんな味なら、それだけの金を堂々と徴収出来るのか、気になるだろうが!?
「まぁまぁ、南さんは私たちに合わせてくれてるのね。気遣いが出来る御方ね」
「そ、そうなの! お母さん、お父さん。昭平さんはね、そう言う気遣いもしてくださる人なのよ」
「ふん……。まぁ、その辺りは料理と飲み物が届いてからじっくり見極めさせてもらおう。すいません、注文よろしいかな?」
親父さんは店員に声をかけ、手早く注文をしていく。
これだけの価格を見て、身じろぎもしないとは……。
まさか、富豪なのか?
いや、あり得る。
そうであれば、娘の金銭感覚もバグる訳だ。
そうして、飲み物と軽食は直ぐにやって来た。
確かに、手早い。
だが少し早いだけで高額を請求するのはどうなんだろうか。
ファストフード店なら、もっと早いのに安いぞ?
店員が綺麗な服を着て、丁寧な接遇をすることにそれだけの付加価値があるというのか?
「それで、南くんだったな。君は娘のどこが好きなのだね?」
「全てです」
事前に打ち合わせをしておいた。
絶対に聞かれるだろうから、と。
キチンと考えようとしたが、この短い期間の偽装同棲。
しかも殆ど顔を合わせていないか、喧嘩ばかりの関係だ。
説得力がある好きな所など、語れるもはずがない。
だったら全てと即答することで黙らせようと話合ったのだ。
「まぁ、即答! それも全てなんて……。ロマンチックね~」
「そうなの。勿論、まだ交際して日が浅いから、これからお互いに色々な面を見るでしょうけどね。私たちは、それも乗り越えていくつもりよ」
よくもいけしゃあしゃあと……。
俺をロジハラモンスターと言っていたが、アンタは嘘つきモンスターじゃないか。
正直、恐ろしいぞ。
「ふん、底の浅い答えだ」
親父さんは俺たちの考えた答えに納得がいかなかったらしい。
腕を組んで眉間に皺を刻み、不機嫌そうにしている。
「娘のどこが特に好きなのか。具体的に言ってみなさい」
なん、だと?
具体的に……。
それは、予想だにしていなかった。
横目に川口さんを見れば、戸惑うように視線を俺と親父さんへ行ったり来たりさせている。
お袋さんも楽しそうに微笑むばかりで、止める気配はない。
ここはアドリブで乗り切るしかないか……。
「……痛みを知っていること、ですかね」
