「人の命を目の前で失って、確率で気持ちを割り切ろうとするなんてバカみたい! 悲しくて悔しいなら、素直にそう言えば良いのよ!」
「医者が悲しくて悔しいなんて感情論を、患者家族へ口にするのが許されると思っているのか!? 何故救えなかったのか、科学的根拠《かがくてきこんきょ》に基づいて家族へ俯瞰的《ふかんてき》に説明する責務がある! そして救えた命、救えなかった命を冷静に比較検討《ひかくけんとう》し、どうすれば0.01パーセントでも救える確率を高められるのか。研究検証《けんきゅうけんしょう》を続けて行く必要があるんだ! 感情論に流されて、医科学の発展を止められるか!」
「感情がなければ、熱意だって生まれないじゃないの! だったらAIが発展してくれるのを祈った方がマシよ! 自分の為に泣いて笑ってくれない上に、ケチで偏屈な医者よりも、知識が詰まったAIの方がまだ信頼出来るわ!」
「損得勘定で営業しているのはアンタも同じだろうが!? 交渉次第で値引き額が大幅に変わりやがる! そうやって、人によって取る金額を変えるのは、卑怯だろうが! 原価と交渉も知らない善良な人間から暴利を貪る詐欺師が!」
「だ、誰が詐欺師ですって!? 訂正しなさい!」
言いたかった言葉をぶつけてやると、川口さんは顔を真っ赤にした。
掴んでいた俺の胸ぐらを捻り上げ、馬乗りになる。
完全に暴力へ訴えかけるような姿勢だ。
口論で負け、正論に腹を立てたから、力で黙らせようってか。
詐欺師という言葉に、自分でも心当たりがあったんだろうな!?
「ハンッ。図星を突かれたから怒っているんだろう。人を笑顔に出来る素晴らしい仕事だと!? ああ、真実を知らなければ笑ってくれるだろう。だがもっと安価に同じ結婚式が出来たと知れば、アンタの相手して来た客も不幸になる。知らないからこその幸せを提供して、アンタは自己満足に浸ってるんだろうが! そりゃ嬉しいだろうよ、暴利を貪り自分もインセンティブを得て昇進までして。幸せそうな顔をしている愚か者を見るのは、さぞ愉快だろうな!?」
「あんた、絶対に許さない! ボコボコにしてやる!」
「そうか、やりたければやれば良い!」
バンッと、大きな音を立て俺の頬へビンタされる。
だが、効かんな!
そんな細腕で殴られたと所でな。
こっちは手術後で意識が混濁している患者に、しょっちゅう殴られているんだ!
「喧嘩は同レベルでしか成り立たんと言うからな! 俺はやり返さん! 精々、暴力で自分の言い分を通すと良いさ!」
「ど、どこまでも、バカにして! この部屋に来た初日から、あんたの一言一言にストレスが溜まってたのよ!」
何回かビンタをして効かないと判断したのか、ガクガクと掴んだ胸ぐらで俺の頭を大きく揺すり出した。
狭い壁際で掴まれていたから、俺の後頭部がガンガンと壁に衝突する。
痛い、これは首もヤバい!
だが、それ以上に――賃貸の集合住宅なんだぞ!?
「お、おい! 揺すって俺の頭を壁にぶつけるのは止めろ! 近所迷惑だし――」
「――効いているってことね! 誰が離すもんですか!」
「後頭部、いや壁が! クロスだけなく、壁材まで凹めば、退居費用が跳ね上がる!?」
「壁に当たる度、あんたの頭も跳ね上がってんでしょ!? もっと痛がりなさい!」
アホが!
肉体の痛みなど、我慢すればいずれ治る。
だが懐の痛みは永遠だ。
生涯に稼げる収入は、概ねの上限が決まっているんだぞ!?
余計な出費を投資に回せれば、もっと望む物を得られるかもしれないのに!
「余裕そうな顔が、また許せない! いい加減にしなさいよ!? あんたを殺して、私は自由に生きる!」
「偉そうに言うな! それでは、唯の殺人鬼だろうが!?」
「黙れ! あんたが泣いて謝るまで、この手は止めない!」
「落ち着け、賃貸で殺人事件を起こせば、多額の賠償請求も来るんだぞ!?」
必死に止めるよう説得するも、怒り心頭なのか、川口さんが止まることはなかった。
ヤバい、このままでは本当に硬膜外血腫などで殺されるかもしれん!
なんとか逃げなければ……。
だがやり返す訳にはいかん!
暴力に暴力で対抗するなど愚の骨頂。
ましてや男女の筋力差だ。
それだけは、個人のポリシーとしても絶対にダメだ!
這いずるように、玄関の近くへ逃げると――。
『すいません! 警察署のものです! 男女が激しい喧嘩をしていると、騒音でクレームがあったのですが、大丈夫ですか!?』
『強盗ですか!? 空けてくれませんか!?』
インターホンを連打しながら、そんな声がドア越しに聞こえた。
2人の男の声は、警察官だと名乗っている。
一気に頭が冷え、冷静になった。
それは川口さんも同じだったようで――心底、気まずそうな顔をしながら、俺の胸ぐらから手を離した――。
「医者が悲しくて悔しいなんて感情論を、患者家族へ口にするのが許されると思っているのか!? 何故救えなかったのか、科学的根拠《かがくてきこんきょ》に基づいて家族へ俯瞰的《ふかんてき》に説明する責務がある! そして救えた命、救えなかった命を冷静に比較検討《ひかくけんとう》し、どうすれば0.01パーセントでも救える確率を高められるのか。研究検証《けんきゅうけんしょう》を続けて行く必要があるんだ! 感情論に流されて、医科学の発展を止められるか!」
「感情がなければ、熱意だって生まれないじゃないの! だったらAIが発展してくれるのを祈った方がマシよ! 自分の為に泣いて笑ってくれない上に、ケチで偏屈な医者よりも、知識が詰まったAIの方がまだ信頼出来るわ!」
「損得勘定で営業しているのはアンタも同じだろうが!? 交渉次第で値引き額が大幅に変わりやがる! そうやって、人によって取る金額を変えるのは、卑怯だろうが! 原価と交渉も知らない善良な人間から暴利を貪る詐欺師が!」
「だ、誰が詐欺師ですって!? 訂正しなさい!」
言いたかった言葉をぶつけてやると、川口さんは顔を真っ赤にした。
掴んでいた俺の胸ぐらを捻り上げ、馬乗りになる。
完全に暴力へ訴えかけるような姿勢だ。
口論で負け、正論に腹を立てたから、力で黙らせようってか。
詐欺師という言葉に、自分でも心当たりがあったんだろうな!?
「ハンッ。図星を突かれたから怒っているんだろう。人を笑顔に出来る素晴らしい仕事だと!? ああ、真実を知らなければ笑ってくれるだろう。だがもっと安価に同じ結婚式が出来たと知れば、アンタの相手して来た客も不幸になる。知らないからこその幸せを提供して、アンタは自己満足に浸ってるんだろうが! そりゃ嬉しいだろうよ、暴利を貪り自分もインセンティブを得て昇進までして。幸せそうな顔をしている愚か者を見るのは、さぞ愉快だろうな!?」
「あんた、絶対に許さない! ボコボコにしてやる!」
「そうか、やりたければやれば良い!」
バンッと、大きな音を立て俺の頬へビンタされる。
だが、効かんな!
そんな細腕で殴られたと所でな。
こっちは手術後で意識が混濁している患者に、しょっちゅう殴られているんだ!
「喧嘩は同レベルでしか成り立たんと言うからな! 俺はやり返さん! 精々、暴力で自分の言い分を通すと良いさ!」
「ど、どこまでも、バカにして! この部屋に来た初日から、あんたの一言一言にストレスが溜まってたのよ!」
何回かビンタをして効かないと判断したのか、ガクガクと掴んだ胸ぐらで俺の頭を大きく揺すり出した。
狭い壁際で掴まれていたから、俺の後頭部がガンガンと壁に衝突する。
痛い、これは首もヤバい!
だが、それ以上に――賃貸の集合住宅なんだぞ!?
「お、おい! 揺すって俺の頭を壁にぶつけるのは止めろ! 近所迷惑だし――」
「――効いているってことね! 誰が離すもんですか!」
「後頭部、いや壁が! クロスだけなく、壁材まで凹めば、退居費用が跳ね上がる!?」
「壁に当たる度、あんたの頭も跳ね上がってんでしょ!? もっと痛がりなさい!」
アホが!
肉体の痛みなど、我慢すればいずれ治る。
だが懐の痛みは永遠だ。
生涯に稼げる収入は、概ねの上限が決まっているんだぞ!?
余計な出費を投資に回せれば、もっと望む物を得られるかもしれないのに!
「余裕そうな顔が、また許せない! いい加減にしなさいよ!? あんたを殺して、私は自由に生きる!」
「偉そうに言うな! それでは、唯の殺人鬼だろうが!?」
「黙れ! あんたが泣いて謝るまで、この手は止めない!」
「落ち着け、賃貸で殺人事件を起こせば、多額の賠償請求も来るんだぞ!?」
必死に止めるよう説得するも、怒り心頭なのか、川口さんが止まることはなかった。
ヤバい、このままでは本当に硬膜外血腫などで殺されるかもしれん!
なんとか逃げなければ……。
だがやり返す訳にはいかん!
暴力に暴力で対抗するなど愚の骨頂。
ましてや男女の筋力差だ。
それだけは、個人のポリシーとしても絶対にダメだ!
這いずるように、玄関の近くへ逃げると――。
『すいません! 警察署のものです! 男女が激しい喧嘩をしていると、騒音でクレームがあったのですが、大丈夫ですか!?』
『強盗ですか!? 空けてくれませんか!?』
インターホンを連打しながら、そんな声がドア越しに聞こえた。
2人の男の声は、警察官だと名乗っている。
一気に頭が冷え、冷静になった。
それは川口さんも同じだったようで――心底、気まずそうな顔をしながら、俺の胸ぐらから手を離した――。
