まるで時が止まったかのように静まる部屋には、伊吹さんが走らせる鉛筆の繊細な音だけが微かに聞こえるだけ。
出来るだけ動かないようにすることは、もっと大変なものかと思っていたが、思っていたよりも自分が動かずにいることは、それほど苦ではなかった。
伊吹さんは時折、「寒くないですか?」と気にしてくれたり、「休憩挟みましょうか?」と気遣ってくれたが、わたしは休憩を挟まずに石像を演じた。
一度動いてしまうと、また全く同じポーズになれる可能性が低いからだ。
伊吹さんが鉛筆を走らせ始めてから、どのくらいの時間が経っただろうか。
緊張の糸が切れたかのように伊吹さんが「はぁ、出来た。」と呟いた。
伊吹さんは立ち上がり、こちらに歩み寄って来ると、わたしのベッドの上に放り投げていたガウンを手に取り、わたしの肩に掛けてくれた。
「しずくさん、ありがとうございます。無事に素敵な絵が描けました。」
そう言うと、伊吹さんは後ろから優しくわたしを抱きしめた。
「お疲れ様です。」
わたしがそう言うと、伊吹さんは「俺なんかにありのままのしずくさんを描かせていただいて、本当にありがとうございます。」と言った。
「しずくさんって、つい抱きしめたくなる後ろ姿してますよね。」
「そうなんですか?」
「はい。このまま、抱きしめててもいいですか?」
伊吹さんはそう言うと、わたしを抱きしめる手にギュッと力を込めた。



