そっと、ぎゅっと抱きしめて


「俺はまだ飲めないので、先に飲んでみてください。」

伊吹さんはそう言ったが、わたしは「いえ、伊吹さんと一緒に飲みたいので、わたしももう少し冷めるのを待ちます。」と言った。

伊吹さんはわたしの言葉に笑うと、自分の定位置に座り、「ありがとうございます。」と言った。

「あれから、左手は痛みませんか?」
「はい、大丈夫です。伊吹さんがマッサージしてくれたおかげで調子が良いくらいです。」

わたしがそう言うと、伊吹さんは「良かった。」と微笑み、「それなら、定期的にマッサージしようかな。」と続けて言った。

「あ、そういえば、話があるって言ってましたけど、、、。」

わたしがそう話を切り出すと、伊吹さんは「あ、そうでしたね。」と言い、改まったように椅子に座り直し、わたしの方を真っ直ぐに見た。

「峯岸さんをマネージャーからおろしました。」
「えっ。」
「嫌だって、かなり駄々をこねられましたけど、しずくさんを傷付けるような人をビジネスパートナーとしておいておく訳にはいきませんから。」
「そんな、わたしのことなんて気にしなくても、、、。」
「いえ、俺にとってしずくさんは大事な人だって言ったじゃないですか。これからも俺が絵を描く斜め後ろに居ていただきたいんです。側に居て欲しいんです。」

伊吹さんの言葉は真っ直ぐで温かくて、心に響いた。

わたしは、伊吹さんの側に居ていいんだ。
そう思うと、嬉しくて涙が出そうになった。

「今日、いつもならお昼頃にしずくさんが来てくれるのに、なかなか来なくて、、、何だか寂しくて絵を描くのに集中出来なかったんです。それでLINEしちゃったんですけど、、、しずくさん、もしかして、こないだの峯岸さんとのやり取り、、、見ちゃいましたか?」

伊吹さんは複雑な表情を浮かべながらそう言い、わたしはその言葉にゆっくり頷いた。