そっと、ぎゅっと抱きしめて


伊吹さんのアトリエの前まで来ると、変に緊張してしまい、ドアノブに手をかけることが出来ずにいた。

すると、アトリエのドアが開いた。

ドアの向こうには、優しく微笑む伊吹さんの姿があり、わたしは伊吹さんの姿になぜか涙が出そうになった。

「待ってました。どうぞ。」

そう言い、アトリエ内にわたしを促してくれる伊吹さん。

わたしは「お邪魔します。」と中に入ると、見慣れてきたはずのアトリエ内を見渡し、初めてこのアトリエに来た時の事を思い出した。

「どうぞ、座ってください。今、丁度お湯が沸いたところなので。この珈琲持って来てくれたの、しずくさんですよね?」

伊吹さんはそう言いながら、こないだわたしがドアノブにかけて行ったスターバッ◯スのドリップ珈琲を手に取って見せた。

「はい。」
「こんなお高い珈琲、ありがとうございます。」
「いえ。飲んでみましたか?」
「まだ飲んでませんよ。しずくさんと一緒に飲みたかったので。」

そう言いながら、伊吹さんは少しずつお湯を注ぎ、珈琲を淹れていく。

珈琲の良い香りがアトリエ内に広がり、わたしは避けて来なかったアトリエ内にまた居ることが出来ている幸せを噛み締めていた。

「はい、どうぞ。」

いつもの丸みのあるマグカップに入ったミルク入り珈琲を差し出してくれる伊吹さん。

わたしは「ありがとうございます。」と、それを両手で受け取った。