そっと、ぎゅっと抱きしめて


その日の夜、わたしはなかなか寝付くことが出来なかった。

"俺は、しずくさんのことが好きです。" 

その言葉が頭から離れない。

わたしが今ここにこうして生きていられるのは、伊吹さんのおかげだ。

あの時、伊吹さんに助けられていなければ、もうこの世には居なかったかもしれないし、もし生き残っていたとしてもあの奴隷のような続いていただけだ。

それから偶然にも伊吹さんと美術展で再会して、伊吹さんが背中を押してくれて、あの生活から抜け出すことが出来て、今穏やかな生活を送れている。

伊吹さんに助けられてばかりで、わたしは伊吹さんに何も恩返しが出来ていない。

わたしに出来ることって、何だろう。
伊吹さんにとって、何が恩返しになるんだろう。

わたしにとっても、伊吹さんは大事な人だ。

伊吹さんも言ってくれたように、わたしも伊吹さんを失いたくない。

そして、1人の男性として、わたしは伊吹さんが好きだ。

斜め後ろから見る伊吹さんが絵を描く姿も好き。

猫舌で冷めた珈琲しか飲めない伊吹さんも好き。

人参が苦手で「食べてください」と言ってくる伊吹さんも好き。

わたしの頭の中は、伊吹さんでいっぱいだった。

久しぶりに抱いた恋心。
感情が壊れていたわたしがまた人を好きになれたのも、伊吹さんのおかげかもしれない、そう思った。