そっと、ぎゅっと抱きしめて


アトリエのドアを開け、中を覗き込むと、いつものように伊吹さんは絵を描いていた。

そして、ふとこちらを振り向くと、わたしだと気付き「しずくさん、おはようございます。」と言ってくれた。

「おはようございます。」

そう言いながら、わたしはアトリエ内に入りドアを閉める。

「昨日はちゃんと寝ましたか?」

わたしがそう訊くと、伊吹さんは「昨日は少し寝れましたよ。さっき起きたばかりです。」と答えた。

「じゃあ、眠気覚ましに珈琲でも淹れましょうか。」
「ありがとうございます。」

わたしはシンク横の棚から、伊吹さんのマグカップと自分用になってきたマグカップを2つ揃えると、ドリップ珈琲を2つ取り、ケトルに水を入れてスイッチを押した。

すると、伊吹さんが突然「いやぁ〜、やっぱりしずくさんが居ると、癒されるなぁ。」と言い出した。

「えっ?そうですか?」
「しずくさん、自分では気付いてないかもしれないですけど、癒し系ですよ?」
「え〜、そんなこと初めて言われました。」

わたしはそう言いながら、ドリップ珈琲の袋を開け、マグカップにセットした。

「最近、表情も出てきて安心しました。最初、出会った頃は、この人は感情が壊れてしまってるんじゃないかなって、心配だったので。」
「確かに、感情は壊れていたかもしれないですね。でも今、表情が出てきているんだとしたら、それは伊吹さんのおかげです。伊吹さんに出会ってなかったら、わたしは今ここに居て、こうして珈琲を淹れることが出来てませんでしたからね。」

すると、後ろから温かなぬくもりを感じ、何かに包まれ、わたしはドキッとした。

気付けばわたしは、伊吹さんに後ろから包まれていたのだ。